恋愛哲学論 保健室のベッドに寝転んで、窓を見上げる。 今日は快晴。 いい青空だ。 「先生、私達ってどうして出会ったんでしょう」 「お前がこの学校に入学してきたからだろ」 「そういうんじゃなくて。もっと哲学的な感じで」 煙草の匂いが部屋に漂う。 保健室だってのに。 「何言ってんだ、お前は。そっち系の大学狙ってんのか?」 「いいえ。ただ、たまにはそんなこと言ってみたくなって」 椅子に腰掛けている先生は、少し遠い。 「どっかのバカップルが言うようなセリフじゃねぇのか」 バカップル。 私が馬鹿だと? 「そんなのと一緒にしないでくださいよ」 「バカップルってのもいいかもな」 立ち上がった先生はつかつかと歩み寄って、ベッドに腕を預けてギシリと軋ませた。 「先生ここ学校」 「オレ様がそんなの気にすると思うか?」 「いいえ」 「いい子だ」 褒められてもちっとも嬉しくないんですが。 「せっ先生!」 「何だ?」 息がかかりそうなくらい顔が近い。 最後の抵抗をしよう。 「さっきの質問っ」 「あ?」 「どうして出会ったのかってヤツ!それに答えてくれたら、おとなしくします!」 「ほう…?」 抵抗っていうか、火に油を注いだんですかね。 大きな手のひらが私の顎にかかって。 「それをこれから教えてやるんだよ」 「先生の馬鹿」 甘い展開かと思いきや。 「いだッ!」 「お前なぁ、おとなしくするんじゃなかったのか?」 「おとなしかったじゃないですか!こういう時にデコピンないでしょう!デコピンは!」 「どこがだよ。冷めた目ェしやがって。いい具合に赤くなってるぞ」 「ひっど!なんてことするんですか!」 まだオトナには早いって、ことかな。 少し期待もしたんだけど。 「お前、仮に何て答えて欲しいんだ?運命とかつまんない言葉がいいのかよ」 「…それこそバカップル」 「うるせぇな」 …なんだろう。 ただ、私は。 「理由が、欲しかったのかな」 「は?」 「"こう"だから出会って、恋に落ちましたっていう、物語みたいな理由が欲しかったのかも」 「理由、ねぇ」 我ながら、妙なことを言ってる。 「お前はダイエットをしたかった、オレ様は面倒見が良かった、だから出会ったんだろ」 「なんかすんごい現実味ありますね」 「つーか、それが現実だろ」 「はい…」 しまった。 私達の間にはロマンチックなんてかけらもなかった…。 「理由なんかいらないだろ。お前はもうオレ様が好きで、オレ様はお前が好きなんだから」 「…きっと私、ずぅっと先生を探してたんです」 なんて、お芝居みたいなことを言ってみたり。 「…んじゃ、オレ様はお前を探してた」 あ、乗ってくれた。 「探したぜ?お姫様…」 「………っ」 優しい口付けが降りてくる。 正直笑っちゃいそうなセリフなのに、先生が真剣な顔なもんだからドキドキして目が逸らせなかった。 どうしてか堪らなく切なくなった。 冗談のつもりが、実は本当だったのかな。 同じ空の下。 ずっとあなたを探してた。