手のひら同居人シリーズ・ムッくん編2
ふっと意識が覚醒する。
目を閉じたまま、朝が来てしまった事を感じて…体が動かないことに気付いた。
何かが体に巻き付いているような。
これはまさか金縛り…っ!?
「ん〜…」
「ん…?」
恐る恐る目を開けると、体に巻き付いていたのはたくましい腕だった。
「えっ…えぇっ!?もしかしなくてもムッくん!?」
「ん〜?ああ…ちんやっと起きたんだ」
朝から恐ろしい思いをしたよ…。
それにしても、このサイズってことは…。
「ムッくん、食べきったね?」
「うん。お腹減ったー」
ムッくんだって四六時中お菓子を食べ続けているわけではない…のだけど。
そういえば、私昨日は起きていられずに早々と眠ってしまったんだなあ。
とりあえず、まずは買い物か。
「ムッくん離して」
「え〜」
「空腹を何とかしたいでしょ。買い物行くよ」
「!」
「ぐえっ」
買い物という言葉に反応し、ムッくんの腕の力が強まった。
顔が見えなくても、興奮は伝わる。
「ギブギブ…!」
私の必死さが届いたのか腕は緩んだ…のに、まだ私をきゅっと抱き締めている。
「ムッくん…?このままじゃ買い物行けないけど」
「うん」
何かおかしい。
無理矢理体をよじって彼に向き合った。
「ムッくん?お菓子欲しいよね?」
「欲しいー…けど」
「けど?」
「このまんまでもいいかも」
「えっ!?」
予想しなかった言葉に、突然意識して顔が熱くなる。
「ちん顔真っ赤」
「だ、だってムッくんが…!」
「俺が何?」
ムッくんが…!
「お菓子!お菓子買おう!」
「ちんは俺が小さい方がいい?」
「え…?えっと…」
そりゃ小さいムッくんは可愛い。
ものすごく可愛い。
時々とてつもなく可愛い。
大きいムッくんは…もちろん嫌いだなんて言わないけど。
なんていうか…調子狂う。
「ちん」
「あの…だから…買い物、」
「ふーん。小さい方がいいんだ」
「ムッくん?」
あっさり私を解放して、ベッドから離れて行く。
「早く行こー」
「あの、ムッくん」
ムッくんはさっさと玄関へ向かってしまう。
「ムッくんてば!」
しがみついても巨体を止められるはずがなく、ズルズルと…。
「お、大きいムッくんだって嫌いなわけないでしょ!」
「そーなの?」
「そ、そうなの!」
「好きなんだ」
私をあっさりとはがして、ムッくんはこちらを向く。
「ムッくん…?」
大きな体を折って、ムッくんは、私にキスをした。
「えっ!?えっ!?」
「だって好きなんでしょー?」
「や、あの、え?」
「ほらお菓子ー」
ぐいぐいと腕を引っ張られ、その力に勝てるはずがなかった。
「ちょっと!どれだけ買うつもり!?」
「え〜?まだ足りないんだけど」
「足りる!何とかなるから次々とカゴを増やすのやめて!お菓子は300円までです!」
お金を出すのは私です!
「300円とか…全然買えないじゃん」
一日もたないよね。
可愛さ余って憎…めない!
「じゃあ1000円で手を打たない?」
「………」
不満だね。
その顔は超不満だね。
「ちゃんと私が補充するし、また買いに来ればいいでしょ?」
「…仕方ないなあ」
それはこっちの台詞だ。
ムッくんは渋々了承した。