手のひら同居人シリーズ・ミドリン編1 我が家には可愛い可愛い手のひらサイズの同居人がいます。 「今日はこんな感じかな。頑張れ!」 「………」 ミドリンは一瞬戦慄した表情を見せたけれど、さすが不可能を可能にする男。 「入れてやるのだよ」 小さな体でアップを始めた。 「真ちゃん!その意気だー」 今日はテーブルから3m程度離れた棚の上にゴールを設置した。 ミドリンの身長でも見えないということはないだろう。 ミドリンは日に日にゴールを決める距離を伸ばしている。 それに対抗心…じゃなかった、ミドリンの成長を更に見せてほしいという親心で毎日新しいゴール位置を考え用意している。 「それじゃ、出掛けてくるから」 「楽しみにしておくのだよ」 ミドリンの小さな手が、小さなメガネを押し上げた。 ああ、可愛い。 一人で練習している姿を見られないのがとても心苦しい。 「行ってきます」 「ただい…うわああ!?み、緑間くん!?」 「テーピングが切れたのだよ…」 玄関のドアを開けると普通サイズ(小さいのが普通だろうと言うと怒る)のミドリンが顔を出した。 大きくなるとやっぱり慣れない。 “緑間くん”と呼んでしまうくらい。 ドキドキするのは規格外の大きさだから、じゃないだろうか。 さすがバスケっ子。 大きすぎる。 「ふふふ、ちゃんと新しいの買ってきてるよ」 「それはちゃんと指定したメーカーだろうな?」 「もう覚えたってば!」 いかにそのメーカーがいいのか、そのメーカーでなければならないのかを語られたことは記憶に新しい。 割と日が浅い私たちの関係。 「さあ!手を出したまえ!」 「終わったらシュートを見せてやるのだよ」 「えっ!あの距離でできたの!?」 「当たり前なのだよ」 いつもテーピングがしっかりされているせいか、私より白いんじゃないかという指を包んでいく。 長い指だなあ。 めちゃくちゃ細かい巻き方の指導に“これでいいじゃん”と何度も言いかけたっけ。 本気で言いそうになった時、それでも私にやらせようとする彼に気付いて愛しすぎて一生懸命習うことにしたのだった。 「ハイ、できた」 「礼として見せてやるのだよ」 すっかり小さくなったミドリンが、ぴょこぴょこと今日の指定位置に向かう。 ちゃんと見ているか?とミドリンが私を見上げる。 「真ちゃん頑張れー!」 声を掛けると集中力を高め、小さな小さなボールを放った。 距離があるせいか、随分ゆっくり飛んでいくように見える。 「っ入ったあー!ミドリンすごいねおめでとう!」 「これくらい何てことないのだよ」 ミドリンが顔を赤くしてメガネを押し上げる。 その姿を見ながら、私はまた明日はどこにゴールを設置しようかと考えるのであった。