手のひら同居人シリーズ・黒子くん編1
我が家には可愛い可愛い手のひらサイズの同居人がいます。
「食後の紅茶ーっと」
今日はアプリコットティーに決めました。
ティーバッグを入れて、カップにお湯を注ぐ。
「あの、熱いです」
「きゃーっ!?黒子くん!?火傷してない!?」
すぐにボウルを引っ付かんで、カップの黒子くんを移して水を満たす。
「ごめんね…大丈夫?」
「はい。今度は冷たいですけど」
「痛くない?だったらぬるま湯入れるよ」
「大丈夫みたいです」
黒子くんがお湯がかかったらしい部分を服をぺらっとめくって確認していた。
可愛い。
「ホントにごめんね…。気付かないなんて…」
バスタオル…もといタオルハンカチで黒子くんを拭く。
濡れた服まで乾くのはどういう仕掛けなんだろう。
大きさが変わっても服は自動的に伸び縮みしてるみたいだし不思議。
「いえ、何だか居心地が良くて寝てました」
「そんなところをお湯が急襲するとか罰ゲームだよねごめん!」
黒子くんはサイズもサイズながら、気付けないことが多い。
決して私に愛が足りないってことはないと思いたい。
声を掛けられてキョロキョロして、目の前にいるなんてことはいつものこと。
「お詫びにマジバ行こう」
「マジバですか」
ピクリと黒子くんが反応する。
「ほらほら、バッグ入って」
「はい。失礼します」
ひょっこり頭を出して可愛いったらない。
誰かに見られると困るから、外に出る時は中に入ってもらうのだけど。
「黒子くん早くない?」
「何がですか」
黒子くんはマジバのシェイクに反応して大きくなる。(彼は普通サイズになっただけだと言うが)
大抵私が買って帰って、見せた途端黒子くんが大きくなっている。
店に一緒に来るのは初めてではないものの、マジバまであと数歩というところで成長するとはそんなにお預け食らわせてたかな…。
「はい、バニラシェイク」
「ありがとうございます」
「おいしい?」
「おいしいです」
ちょっと目を離すと、もう黒子くんはいなかった。
「さん」
「えっ?」
やっぱりどこにもいない。
「こっちです。ごちそうさまでした。帰りましょう」
すっかり小さくなった黒子くんが、バッグの中からちょいちょいと私の袖を引っ張っていた。