手のひら同居人シリーズ・黄瀬くん編1
我が家には可愛い可愛い手のひらサイズの同居人かいます。
「っちー」
「うんうん」
パソコンのキーボードに乗せた手に重なる小さな小さな手。
その手を持つ小さな彼は随分可愛いのだが、生憎そんな場合じゃないというのが本音。
「っちー」
「はいはい」
中身ない返事だとわかりきっている黄瀬くんは再度私の名前を呼ぶ。
私がパソコンとにらめっこを始めてから、どれくらい経ったろう。
最初の内は指を貸したりしていたのだけれど。(ちなみに鉄棒のようにぶら下がってキャッキャと喜んでいた)
「っちー」
「まだ終わらないからさ、ちょっと一人で遊んでてくれないかな」
「えー」
黄瀬くんがぶぅっと口を尖らせる。
次に言った言葉を聞いて、しまったと。
「つまんないっス」
思った時にはもう遅いものだ。
その声は上から降ってきた。
「き、黄瀬くん…」
ああわかってる。
私悪くないけど私が悪いんだよ。
黄瀬くんは退屈をこじらせると大きくなる。
小さい時は本当に愛らしいのに、普通の男の子もびっくりなサイズになるのである。
この大きいのが彼にとって普通サイズらしい。
「っち」
小さな体で甘えてきたのとは全然違う態度で。
テーブルに片手を置いて、私を覗き込む。
「もう少し我慢してよ…」
「そしたら構ってくれるんスか?」
「えー…うん、まあ」
「何で嫌そうなんスかぁ!」
めんどくさいからだよ…。
そうやって泣く姿は可愛いんだけどなあ。
「まあ、ジュースでも入れてあげるから…ッ!」
黄瀬くんは立ち上がった私の腕を掴むと両腕を一纏めにして壁に押し付けた。
「なにっ!?」
「俺もう十分我慢したっス!」
「してない!」
殴って止めようにも手が動かない。
それなら…。
「さん」
「っ!」
真剣な顔で名前を呼ばれて硬直する。
だってこの子イケメンなんだもん…!
「可愛い」
からかいを含んだ声で耳元で囁かれ、ハッと我に返った。
「可愛くないわー!」
自由だった足を武器にする。
「ちょっっち危なっ!」
「この手を離しなさい!」
「離す!離すから落ち着いてよ!」
「離せ!」
「ハイ!」
返事の通り勢い良く解放された。
ハラハラと黄瀬くんは私を見ている。
「…気分転換」
「へ?」
「デート。行くよ」
「っち大好きっスー!」
「離れなさい…」
こうでもしないと小さくならないというのが主な理由だけど、結局私も甘やかしたいんだよね。
「で!どこ行くんスか?」
「マジバ」
「えーまたマジバっすか!?」
「お金出すのは私なんだから文句いうな!」
ぶーぶー言う黄瀬くんの背中を押しながら、どうやって小さくさせようか考えていた。