束の間の休息 虫の声が高ぶった神経を落ち着かせてくれる。 一段落ついたというのに、弓を手放せない自分が情けない。 今夜は月が綺麗だ。 弓の稽古にでも出ればいいだろうか。 そう考えて腕に目をやれば包帯。 エルルゥに少しでも休んでおけと言われたことを思い出す。 「こんなところで何をしているんです」 「ベナウィか…」 「ええ、私です。その弓を下ろしてもらえますね?」 「ああ、ごめん」 戦の後はいけない。 気配がすれば敵のような気がして。 「休めるうちに休んでおきなさい」 「なんか変な感じ」 「何がです?」 「つい最近まで敵だった相手にお説教されるなんてねぇ」 互いに武器を向け合っていた関係だったというのに。 「気に障りましたか」 「とんでもない」 本当は嬉しいから。 「でもね、眠れないわけなんですよ」 こういう時に見る夢は必ず悪夢だ。 「朝方限界が来た時に少し眠ればいいの。それで十分」 夢も見ずに深く眠りに落ちるから。 すっとベナウィが立ち上がる。 呆れたか。 それとも気に障ったか。 するとくるりと振り向いて。 「お茶を淹れて来ます」 「は?」 「眠れないのでしょう、私も付き合うと言っているんです」 「え、あの」 「ここでそのまま寝られては困りますから」 心配しないでください。 自分の部屋くらいちゃんと戻りますから。 ここで寝るわけないじゃないですか。 「あ………」 頭の中で文章が組み上がった頃。 もうベナウィはいなかった。 「さっさと寝ればいいのに」 自分こそ、睡眠時間なんて全然とってないじゃないか。 でも。 「嬉しいなんてねぇ」 戻ってくる彼を心待ちにしている。 そんな、愚かな束の間の休息。