大切なのは愛と勇気 「うわっ、怖っ!てゆーか、すごっ!」 「君一人が来るだけで随分賑やかになるものだな」 「あ、アーチャー」 月明りに照らされる瓦を滑り落ちないように懸命に渡り歩いていたところ、彼に出くわした。 …まぁ、ここに居るのを見つけたから来たわけなんだけど。 「何か用かな、マスター」 「特にないよ。見つけたから来てみただけ」 なんだか気持ち良さそうだったから。 本人はそんな気持ちで居るんじゃないってわかってるけどさ。 「…にしても結構怖いね、ここ」 いつ落ちるかと冷や冷やする。 無駄に素敵にスリリング。 「君には危ないだろうな。落ちない内に戻った方がいい」 「当たり前だけど、ムカつくお言葉だわね」 そんな風に言わないでさ。 「落ちたら助けてよ」 「まぁ、助けざるを得ないだろう」 「え、そこ義務なの?」 もっと優しさとか…とか。 そういうものなら、嬉しいのに。 「サーヴァントはマスターの道具だ」 「………」 じゃあこの気持ちは、ないものねだりとか。 高望みとかそういう域? 「んじゃ、戻る。落ちてもそんな気持ちで助けられるなら」 「なぜ君は落ちることが前提なんだ」 「え?うーん…なんで?」 「私に聞かないでくれ」 赤いサーヴァントが呆れている。 こんな自分の馬鹿さ加減を示しに来たわけじゃないのに。 「はっくしゅ!」 「冬の夜に上着もなしに外に出るとはな」 「くしゃみが出るほど寒いとは思わなかったの」 子供じみた言い訳。 「私が部屋まで連れて行こう。それなら戻るだろう?」 「え?あ、まぁ…」 「暖かくして眠ることだ。風邪なぞひかれては困る」 そうしてひょいと抱きかかえられて、地面に着地。 そのまま私の部屋へと向かうアーチャー。 えっと…私はアーチャーに会いたくて屋根に登って…それで…。 結果的に、とても良かったと思う。