君が好き過ぎて



ああ、困った。
どうにも、君が遠い。

「それで…っち?」
「え?どうしたの?」
「…具合悪いんスか?」
「ううん、元気だよ」

私、ちゃんと笑えてるかな。

「なら、いいんスけどね」

なんで、黄瀬くんの方が苦しそうな顔するの。
そんな風に笑わないで。

「うん、大丈夫だよ…」
「今日一緒に帰ろうか」
「え?でも黄瀬くん撮影じゃ」
っち送ってく時間くらいあるから大丈夫」
「でも…」
「嫌?」

嫌じゃない。
むしろ嬉しい。
本当なら、笑顔になって浮かれるような、そんな素敵なお誘い。

「みんなに嫉妬されちゃうよ?」

そうおどけて見せる。

「嫉妬くらいさせとけばいいじゃないスか」
「いや、でも…」
っちは俺の彼女なんスよ?」

うん、そうなんだけど。

「もしかして、嫌がらせされたりしてるの?」
「まさかっ!」
「…ふーん」

言えない。
こんな醜い私、見せたくない。
全部私が悪いんだ。
嫉妬なんてしてるのは私の方。
彼女という私の存在があっても、黄瀬くんがモテるのは変わらない。

昨日だって、やっぱり体育館は黄瀬くんの応援でいっぱいで。
帰りは一緒に帰ったけど、練習の途中で外に出て終わるのを待っていた。

「何かあったら言っていいんスよ」
「ありがとう」

優しいね。
私にはもったいないな。

「嬉しいけど一人で帰るよ」
「ダメ」
「え?」

突然黄瀬くんの雰囲気が変わった。
机を挟んで向かい合って話していたのに、今彼は身を乗り出して、身長差で私に影ができる。

「俺、意外と手強いよ?」
「黄瀬、くん…?」
「そんなに俺のこと怖がらなくてもいいのに」
「…あの」
「俺が好きなのはっちだけだよ」

やめて。

「好きだよ」

やめて。

「ね?」

そんなんじゃ足りないの。

「………ぁ」

気付くと、私の頬を涙が伝っていた。

「ごめん!俺…」
「違うの!」
「え?」
「私が全部悪いの!黄瀬くんが好き過ぎて困ってるの!黄瀬くんの周り全部に嫉妬してる!
 こんなめんどくさい彼女嫌だよね!?ごめん、でも私…私…!」
「………」

きっと、ひかれてしまった。
恐る恐る顔を上げる。

「…黄瀬、くん?」
「………っ」

彼は、顔を真っ赤にしていた。

「あのぅ」
「うわ…俺、めちゃくちゃ幸せ者じゃないスか…!」

違うよ、そこは“なんだよこいつ”ってひくところだよ。

「帰ろう!」
「あっちょっと!?」

ぐい、と腕を引かれたけど、そのままついていくわけにはいかない。
私は一緒にいるのが辛いから。

「いっぱい嫉妬して。いーっぱい焼きもち妬いて。俺がそれ以上に、そんなの忘れるくらい愛してあげるから」

真っ赤になったのは、今度は私。