好き時々嫌い



例えばほんの些細なこと。
苦しいくらい愛おしく感じる瞬間がある。

「どうした?そんな顔をして」

返事をせずにアーチャーの胸に頭をもたれさせた。
ゆっくりと抱き締めて、体の温度を感じる。

「…?」

それに応えるように、私も抱き締められる。
包み込むように優しい。

「なんかよくわかんないんだけどね」
「ああ」
「泣きたくなるくらい好きだなあって、思って」

アーチャーの顔を見ながら言えば、うまく笑えなかった。
悲しいんじゃない。
だけど何故だか。

「っ」

優しく口付けが降りてくる。

「別にキスして欲しいわけじゃなかったんですけど」
「私がしたくなったんだ。仕方なかろう?」
「…うーん、さっきのセリフ取り消しね」
「そうか」
「…っ!?」

今度は口付けが深かった。
息が出来ないのと、怒りとでアーチャーを叩く。

「…っはぁ、あんた何聞いてたの!?」
「私は君の言葉通りにしただけだが」
「どこが!」
「君が取り消したのは“別にキスして欲し」
「泣きたくなるくらい好きだなあって方よ、馬鹿!」

今更恥ずかしくなってきた。
嗚呼、どうしてあんなこと言ってしまったんだろう。
しかもわざわざ二度も言うはめになったのか。


「何!」

喧嘩腰に答える。

「愛してる」

………。

「不合格」
「何故だね?」
「そんな不敵に笑いながら言うヤツがあるか!馬鹿にしてるでしょ!」
「じゃあどう言えば君は納得してくれるのかな?」

駄目だ。
このパターンはもう駄目だ。
ヤツの術中に嵌ってる。
いつも私はこの笑顔を崩せなくて、結局負けてしまうのだ。

「ふ、普通に言えばいいのよ」
「普通?」
「だーもう、離してよっ!」
「いや、離さない」

くそぅ、どうやって終わらせよう。

「愛している」

不意に耳元で囁かれた。