そばにいて



いつもの目覚めが訪れると思っていたら。
体が何となくだるい。
熱があるんじゃないだろうか。



「体温計ってあるのかな、この国に」



というか、有利やコンラッドでもないとこの単語すら通じなさそうだ。
体を起こしてみると、起きれないこともないらしい。
少しふらつきつつも、とりあえず朝食をとろうと部屋を出る。



「仕事は休めないしね…」



ああ、なんかサラリーマンみたい?
昨日は執務中にうっかり昼寝をしてしまって、終わるまで夜は寝かせてもらえなかった。
仕事はまだまだ山のようにあるみたいだから、少しでも減らさないと。
なんていうか、グウェンが可哀想だ。



ーっ!」



パタパタと駆けて来る足音。
グレタだとすぐに認識できたのだけれど。
いつものように後ろから突撃されるように抱きつかれて悟る。
今日はその衝撃に耐えられないと。
そのままグレタの力に負けて、前に倒れこんだ。











「………?」



夢を見ていたのか。
目を開けるとまたも自分の部屋の天井があった。



「目が覚めましたか」

「コン、ラッド…?」



これが夢なんだろうか。
何でコンラッドがここにいるんだろう。



「グレタに抱きつかれて倒れた後、そのまま失神したんだよ。ひどい熱が出てるのにどうして部屋を出られたんです」

「…やっぱ、熱、出てたんだ」

「ええ。気付かなかったんですか?」

「いや、そんな気はしてたけど、も」



体温計とか、人にみてもらわないと自覚できないもんじゃない?



「どこか痛むところは?傷はなさそうでしたが」

「うん、平気…。頭はガンガンするけど、それは熱のせいだし」



うわ、熱が上がってきてるんだろうか。



「…寒い」

「毛布でも持ってこようか?」

「…でも熱い、から、多分平気。コンラッド、ずっとついててくれたの?」

「熱を出した時は人恋しくなるっていうでしょう?」

「そう?」



両親が共働きだったから、風邪で学校を休んでもいつも一人だった。
だからそれが普通なんだけど。



「何か食べたいものとかある?」

「あー…朝ご飯、食べてないんだっけ」



おなかは特に減ってない。
スポーツドリンクとか、ないだろうしなぁ。
あ、それなら。



「なんか、果物」

「わかりました。少し待っててください」



そう言ってコンラッドは出て行く。
…あれ、なんかちょっとさみしいかも?











寝たくても寝れない。
咳が出たり、喉が痛くないのが救いかな。



…?」



ガチャ、とドアが開く。



「グレタ?」



おずおずと泣きそうな顔をして入ってきた。



「どうしたの?」

が倒れたの、グレタのせい」

「え」

「ごめんなさい。グレタが…っ」



大きな目から涙がこぼれだした。
子供らしく声を上げて泣き始める。



「グ、グレタ!?違うよ、グレタのせいじゃないって!」

「違わないいい!!」

「私は今日は熱が出てたの。具合が悪かったの。それなのに部屋を出た私が悪かったんだよ。グレタをびっくりさせてごめんね」

「…、風邪ひいちゃったの?」

「そう。だからグレタは悪くないんだよ」

「大丈夫?」



なんとか体を起こして、グレタの頭をなでてやる。



「うん、すぐに治るよ。うつったら大変だから、ここにいちゃ駄目」

「…コンラッドはいいの?」



え?
どうしてそんな言葉が出ていらっしゃるんでしょうか。



「…コンラッドは、その、軍人さんだから、風邪がうつらないんだよー…」

「そうなの?」

「そ、そうなの」



我ながらなんていいわけだ。
でもコンラッドとも一緒にいない方がいいよね。
うつったら困る。



「治ったら、また遊ぼうね」

「うんっ!遊ぶ!」

「うん、約束。またね、グレタ」

「またねっ」



グレタ嬢は元気になって出て行った。
子供は元気が一番、と思っていたら入れ違いにコンラッドが戻って来る。



「お待たせしました」

「ありがと…ん?」



コンラッドが持って来てくれたのはリンゴ。
切っても皮もむいてもいない、綺麗なリンゴ。

…まるかじりしろってことなのか。

これでも乙女ですけど。

病人ですけど。

とか思っていると、ナイフを取り出して皮をむき始めた。



「え、コンラッド!?何で!?」

「病人のかたわらでリンゴを切ってあげるって日本の常識でしょう?」



どこで仕入れた常識ですか。



「えっと、ありがたいけどコンラッドも今の私といちゃ駄目だよ」

「どうしてですか?」

「風邪、うつったら困るでしょ」

「大丈夫ですよ」

「何で」

「軍人は風邪をひかないらしいですから」

「なっ!?ちょっちょっと!?聞いてたの!?」



叫んだら頭がガンガンした。
これじゃまるで二日酔いだ。



「何のことです?」

「聞いてた!絶対聞いてたんだ!」

「そんなわけで、今日はあなたとずっと一緒にいます」

「…勝手にすれば。うつっても知らないからね。っていうか、うつしてやる」

「本望とでも言っておこうか」

「すいませんでした」






切られたリンゴはうさぎさん。
食べたらだんだん眠気が襲ってきた。


隣には手を握ってくれるコンラッド。
汗ばんで気持ち悪いでしょと言ったのに、気にならないと笑う。


ゆっくりと眠りに落ちていく。
起きた時、変わらず傍に居てくれたらいいな、なんて思ったけれど。
きっとあなたは私が望まなくてもずっといてくれるんだろうね。