触れたい触れられない 近い距離。 近い距離。 近い距離。 「………」 手を伸ばせば、それだけで簡単に届く距離。 ああ、今の自分の状況は。 いろんな意味でまずいと思う。 「………」 珍しく。 そう、本当に珍しく柱に背を預けて眠っていらっしゃる侍大将殿。 普通なら人の気配を感じるだけで目覚めそうなものなのに。 彼は眠っていた。 「疲れてるのかな」 小さく呟く。 「………」 ああ、そうだ。 今の自分の状態を思い出せ。 ベナウィの寝顔を眺めている自分。 ベナウィの近くにいる自分。 ベナウィの髪に触れてみたいとか思ってる自分。 誰かが通りかかれば、誤解するに違いない。 いや、誤解の通りになればいいのにとか思ってるけど。 「………」 離れるべきだとわかってるのに。 足が動かない。 近い距離。 近い距離。 近い距離。 触れたいのに触れられない。