幸せの距離



眺めているだけで構わなかった。
それが実物でなくたって十分だった。
むしろ幸せ。
好きな時に、見ていいんだから。

さん」
「ん?」

一瞬思考停止。
あれ、今静止画を見ていたはずなのに彼はまばたきをしてる。
こっちはほんものだ。

「ぎゃあああああっっ!!」

今すぐ埋まりたい!

「俺…女の子にそんな反応されたの初めてっスわ」
「ご、ごめんなさい…。でも、黄瀬くんがいきなり…」
「俺が、何?」
「ぁ…」

ヒラリとタイミング悪く私の手を離れていく。

「ん?写真」
「いやああああ!!見ちゃダメ!!」

人生でこんなに大声を出したことなんてあっただろうか。
これからだってそんな予定はなかった!
私はずっと見ているだけで…!

「…俺のこと好きなの?」
「………っ!」

思わずこくこくと頷いていた。
ものすごく高速で。

「まずはお友達から、どうスか?」
「へっ!?」

写真をキャッチしようと床にへばりついていた私に、黄瀬くんは綺麗な笑顔で手を差し出してくれた。
その手を取った瞬間、私はお姫様になれた。



「あの頃はめちゃくちゃ初々しかったっスよねぇ」
「ことあるごとにそれを持ち出すのやめてよ…」
「だって、真っ赤になってカワイイから」
「もう…っ」

バシ、と腕を叩く。
この人は大きくてちょうどいいのがその辺なんだ。

「嬉しいっス」
「黄瀬くんってMなの?」
「違うっスよ!そうやって平気で俺の隣にいてくれるのが嬉しいの!」
「…だって好きだもん」

隣にいると緊張し過ぎて逃げたい衝動に駆られるのは脱したけど、まだまだ落ち着かないよ。

「………っ!俺も大好きっス!!」

こんなに近い距離にいられて。
ぎゅっとぎゅっと抱き締められて。
私は今、あの頃とくらべものにならないくらい幸せ。