少女漫画の展開と違う



甘いものが欲しくなって、冷凍庫から持ってきてパソコンの画面の前に座り直す。

っち何食べてるんスか」
「見りゃわかるでしょ、アイス」

涼太が後ろから話しかける。

「何見てるんスか」
「ドラマ。最近は見逃しちゃってもあとでネットで配信してくれるんだよ。期間限定だけどタダで見せてくれて来週に備えられるってワケ」

ホントありがたいもんだわ。

「俺もアイス食べたいっス」
「さっき食べてたじゃん」

子供か。

「そうなんスけど…」

しょんぼりした声が聞こえてくる。
…仕方ないなあ。

「ハイ」
「ちょっ!冷たっ!っちそこ口じゃない!」
「じゃあどこ」

見えるはずがない。
私の目は画面に釘付けだ。
ただスプーンにすくって、適当に後ろに手を伸ばしただけ。

「あああ、アイス落ちちゃったじゃないスか」
「えー、涼太最低」
「俺!?ねえ、っちもっかい」
「もうめんどくさいよ」
「お願いします!」

後ろでパン、と手を合わせた音が聞こえた。
…仕方ないな。

「ハイハイ」
「おわっ!だからっち違うってば!」
「あーもー人がドラマに集中したいのにうるさいな!!」

とうとう我慢できずに振り向くと、涼太が落ちたアイスを処理しているところだった。

「ひどいっスよっち!せっかく俺と一緒にいるのに!」
「じゃあ何、涼太はひどくないわけ?」
「え…」

あの日、ドラマの放送日。
宿題をやらないと補習になると泣き付いてきたこのバカに貴重な時間を費やしてしまった。

「ええと…その節は、ご迷惑おかけしました」
「私がどれだけ楽しみにしてたか知ってるでしょ」
「…そうっスね。録画も失敗してて発狂してたのは忘れられないっス」

涼太は明後日の方向を見つめて思い出しているようだった。

「じゃあ、ドラマに戻ってもいいんで、一つだけお願い聞いて」
「さっきお願いって言葉聞いた気がするけど」

そんなこと聞いてる場合じゃないし。

「アイスが欲しいんスよ」
「もうカップごと持っておゆき」

同じ味食べたじゃん。
二人で一緒に買ったヤツじゃん。

「じゃなくて」
「えっ…んんっ!?」

パソコンに戻りかけたのに、涼太の手が私の腕を引いて、頬を包む。

「ねえどういうつもり」
「俺はアイスはどうでも良くて、っちに構って欲しかったんスよ」

涼太が唇を尖らせて拗ねた声を出す。

「………」
「………」
「…とりあえずドラマ見たらね」
「えっ!?」
「文句あるの?」
「…ないからくっついててもいいっスか」
「変なとこ触ったら怒るよ」

なんで今ピタリと止まったの。