世界一やさしいキスをしよう
唐突に寂しくなったら、君を呼んでもいいよね。
ダメって言っても、多分私きかない。
それくらいワガママになってもいいよね。
何がダメなのかはわかってるから。
呼ぶことくらい許してほしいの。
「ね」
「何スか」
「いつも…ごめんなさい」
「何のことか…俺バカだからわかんないスよ」
暗い部屋でベッドに二人腰かけて。
手をつないで互いの肩に、頭にもたれあう。
「涼太がバカで良かったなあ」
「ヒドイっスねえ」
そう言ったらまた涙が出てきて。
涼太は黙ってそれを拭う。
暗闇に慣れ過ぎて、もう顔が見えるんだ。
「………」
「何?」
「何でもないよ」
その手が、頬に、顎に流れて。
キスしてくれたらな、なんてね。
「携帯、光ってるよ」
「………」
「涼太」
「………」
「涼太」
行かなきゃ。
あなたには待ってる人達がいるんだから。
「真っ暗スよ」
「え?」
そう言って、電源を切ってしまった。
「ちょっと!何して…」
「俺は呼ばれたから来てるんスよ。いいって言うまで行かない」
「いいよ!行ってよ!仕事だったらどうするの!?って、今日もしかして撮影あるんじゃ…」
「そんなこといつもは気にしないくせに」
りょう、た?
「気にしなくていいんスよ、そんなの」
「何言って」
「俺が、そばにいたい」
いつも私の勝手だった。
いつも私の都合だった。
ねえいつから?
「救われてるのは、俺だって一緒なんだよ」
私は、涼太を壊してしまったんだろうか。
「一緒に居よう。こんな暗い場所じゃなくて、こんな狭い場所じゃなくて。もっと明るくて、広いところだって一緒に行こう」
「涼太…?」
「嫌だったら、いいから。またいつでも呼んでいいから」
ねえいつから?
「ぁ………」
言葉が出ない。
「ずーっと、ずっと。俺は好き」
「………っ!」
「わっ!どうしたんスか!?」
毛布を被って混乱する頭をどうにか落ち着かせようとする。
涼太が?私を?何で、どうして。
そんなわけない。
こんなに弱くて、みにくくて、どうしようもないわたしをだれが。
「…っち?」
優しい涼太の声が胸を刺す。
“っち”をつけるのは、認めてくれたからって言ってたね。
「…かえって。りょうたのきもちには、こたえられないよ」
よわむしは、でていけません。
「答えてくれなくていいんスよ。俺が想ってるだけ」
「………」
毛布ごと、涼太が私をだきしめる。
なんで。
「なんでぇ…!?」
なんでそんなに優しくしてくれるの。
「好きだから、じゃ納得できない?」
いっぱいにみたされる。
だいすき。 りょうた。
あのね、だいすき。
「ずっとずっとずっと…ずっとっ!私、ずっと涼太のこと…すき、だった…っ」
「知ってたっス」
暗い世界は確かに真っ黒なのに、鮮やかで。鮮やかで。
「ね」
「何スか」
「幸せってこういうのだったんだね」
「それは俺も、同感スわ」
きみが、だいすき。
はじめての。
せかいいちやさしいキスをしよう。