会えない時間がもどかしかった 「っ!…どうしたんですか?」 「いや、何でも」 何でもないわけが、ないだろう。 突然現れたと思ったら、抱き締めるなんて。 「だ、誰かに見つかったらどうするんですか!」 「鍵はかけといたよ、せんせ」 「そういう問題じゃ…」 体温が伝わってくる。 そして香る煙草の匂い。 葵理事が耳元でしゃべるから少しくすぐったい。 「何かあったんですか?」 「何もないって言ってんだろ」 「もう…少しだけですからね。私資料取りに来ただけなんですから…」 「ああ」 とくんとくんと。 はやるようで妙に落ち着いている鼓動。 本当は嬉しいんだ、私も。 …学校の中っていうのは落ち着けないけど。 「それじゃ、失礼します」 「またな、せんせい」 俺の気持ちをどこまでわかってるんだか。 はじめは顔を赤らめていたくせに、最後は何もなかったかのように出て行ってしまった。 しかも優しく微笑んで。 「会えない時間がもどかしかった…って言ったら、お前信じる?」