桜並木、染まる君の顔 春は麗らか。 陽気に誘われて散歩なんてしてみたり。 けれど、隣を歩いていたアーチャーが突然足を止めた。 「アーチャー?珍しくぼんやりしてるね」 桜を見上げる彼に声を掛ける。 「ああ、すまないな」 「別にいいけど…アーチャーでも花に見惚れちゃったりするんだねぇ」 一緒に樹を見上げる。 満開の桜。 花びらがひらひらと舞ってくる。 「もうちょっと奥に行こ。桜並木より豪華だから」 「わかった」 「………」 とか言いつつ、足が進まないアーチャー。 いつも好き勝手に付き合ってもらってるから別に構わないんだけど、気になる。 どうして桜をこんなに見ているのか。 「まさか、私が再び桜を見ることができるとはな」 「英霊になってからだって見たことはあったんじゃない?」 何度も呼び出されてたわけだし。 「まあ…桜を楽しむ暇なんかなかっただろうけど」 「冬木の町で桜を見ることが、私の望みだったかもしれん」 「え?」 「英霊エミヤとなった人生は桜など楽しむ余裕などなかった。ただ正義という理想を追い求めていたのだ。  もちろん、愛するということも知らずに」 それまで桜を見上げながら話していたくせに、最後の言葉は私を見て言った。 恥ずかしいヤツめ! 「…もっといい桜見せてあげるから。行くよ!」 ずんずんと先を歩く。 花びらに私の顔を隠して欲しい。 「アーチャー、これから毎年桜を見に来よう。嫌いになるくらい見せてあげる」 「例え嫌いになっても、君と見るならいいものだろうな」 ちらりとアーチャーの顔を見てみれば、ひどく穏やかな笑顔。 その顔、大好き。