最後に勝つのは“好き”という気持ち



「だ、大丈夫かな?これ…」

今までの自分ならあり得なかった。
むしろ、関係ないのに心配する側だった。
だってハラハラするじゃない…こんなヒールの高い靴。
待ち合わせ場所に着くまで、何度躓いたかわからない。
そんなことが簡単に想像がついたので、早く出てきて正解だった。

っち…?」
「あ、涼太」

今日は時間通りに来る日だったみたいだ。
涼太はまちまちである。
その原因はだいたい来る途中に起こるハプニング。
…そう思わないとちょっと自分を納得させられない。
女の子の相手をしてるから、なんてねえ。

「なんかいきなり成長して…いてっ!」
「わかるでしょうが!」

ボケたんだか、本気なんだか(顔は本気だったけど)バカには違いないリアクションで思わず叩いてツッコミを入れてしまった。

「不思議な感じっスね」
「うん、私も」

更にこの身長差の意味をわかっている私のドキドキと言ったら。
まともに涼太を見られないくらいで。

「どうかしたんスか?」
「えっ何でもないよ!」

過剰に反応してる。

「それじゃ行こっか」
「うん」

自然と差し出された手に、自分の手を伸ばすのにもドキドキしたりして。
そしていつもと角度が違うんだなって気付いたり。

「今日はアイス食べたいんだっけ」
「そうそう。今41はトリプル期間だからね!」

と、数歩進んでからいつものペースでは歩けない事を思い出した。

「あっちょっと待って!」
「え?」

振り向いた涼太にバランスを崩して倒れ込んでしまった。
さっきまでのふわふわした気持ちから一変、恥ずかし悔しい。

「ごめん!」
「それよりっち大丈夫?足捻ったりしてないスか?」

涼太は気遣いながら私を立たせてくれた。

「…笑っていいのに」
「へ?」
「無理してヒール高い靴なんか履いてくるからだってバカにして笑っていいよ」

事実だし。

「えっ!せっかく可愛いのに!?」
「コケる様が可愛いってバカにしてんの!?」
「ちがっ!こんな可愛いカッコしてきてくれてるのに笑うとかあり得ないっスよ!」

バカって言いたい。
恥ずかしすぎて、バカって何回も、何回も言いたいのに。
頭がパンクしそうで、何にも言えない。
涼太に限っては“可愛い”なんて、何回も言われ慣れてる筈なのに。

「…15センチ」

俯きながら呟く。

「え?」
「理想の身長差って、15センチなんだって。だから、今日は10センチのヒール履いてきた」

涼太の身長が高いことに不満はない。
他の男の子に比べて大きすぎると並んだときにびっくりすることはあっても。
でもこの189センチに、イケメンスポーツマンモデルに少しでも釣り合うようなところが欲しかったというか。
無反応な涼太の顔を見ると、真っ赤になって固まっていた。

「りょ、涼太…?」
「もーなんなんスかっち!!可愛すぎて我慢できないっス!」
「は?何の我慢だか知らないけどそのまま抑えて」
「無理っス。逃げようとしても無駄っスよ。っちが今日は動きにくいってもう知ってるし」
「ちょっ」

流れるように腰に手が回り、涼太の顔が近付く。
ヒールで足でも踏んでやろうかと思ったけど、バスケに影響が出たりしたら私絶対後悔する。
顔を殴るのもアリだけどモデルに支障が以下同文。
そうだ今日はデートだ。
数少ない貴重な日だ。

「涼太」
「ダメ?」
「違う」

唇が触れる前にそんな会話をして笑ってしまう。
この高さだって涼太の為だ。
ぎゅっと目を閉じてこちらからキスをした。

っち…!」
「私だって、たまにはね」
「今日は予定変更しよう!俺こんなんじゃ出掛けられないっスよ!」
「はあ?」
「絶対無理!こんな可愛いっちを人前に出すなんて俺にはできないっス!!」

ああああとか叫びながら涼太は私を抱き締める。
さっきまでのときめきやら何やらがすっかり吹っ飛んで、更に41に行けないという気持ちで怒りが込み上げてきた。

「じゃあいい。私一人で行く。離して」
「ダメっス!」
「んじゃ約束してたんだから一緒に行って」
「それもダメっス!」

やっぱ足踏んでやろうかな。

「…だったら、何ならいいの」
「俺が買って来るから家で待ってて!」
「溶けるじゃん断る。離して」
っち…」

涼太が叱られた犬みたいになる。
何で私が悪いことしてるみたいな気分にならなきゃいけないんだろう。
…どうしようこれ。

「バニラ、ソーダ、ストロベリーチーズ、杏仁豆腐、チョコレート、キャラメルナッツ」
「えっ?」
「もう一回しか言わないからね。買って来てくれるんでしょ?バニラ、」
「い、行く!行くからっち待って、メモ!メモるから!」

結局いつもこうなるんだよね。
せめてもの腹いせに、全部私が食べたい味にしてやる。