お疲れな恋人たち
最近仕事が忙しい。
私でなく、ベルナルドが。
あくまでお手伝いの私は、電話を取ったり簡単な仕事だけ。
といってもこれだけてんやわんやだとさすがに疲れるけど。
同じ空間にいるけれど少しさみしくなって、電話中のベルナルドに視線を送ると気付いて笑ってくれた。
まさか気付くとは思わなくて、びっくりして恥ずかしくなる。
そこでタイミング良くこちらの電話がなってくれた。
「…はい、はい。了解しました。…ふー」
「少し休憩しようか」
「うん、お疲れ様」
部屋には二人きり。
ソファに並んで座ると、隣のベルナルドにもたれてみた。
「珍しいな、」
「ちょっと、甘えたい、なと…」
顔に熱が集中していくのがわかる。
普段なら絶対こんなことしない。
…しなくても構ってくれるから。
「失礼」
「え?わあっ!?」
あっという間にベルナルドの膝の上。
「ちょ、ちょっと誰か来たらどうするの!?」
「いいんじゃないか、別に」
良くないよ。
「…久しぶり、か。だめだ、可愛いを見てると腰にクるな」
ベルナルドが私を抱きしめて深呼吸する。
「な、何言って…」
「もう3日も抱いてない」
たった3日ですよ、おじさん。
「…私は別にそういうことしなくていいよ。ただ、こうやってぎゅってしてくれれば」
「おねだりには応えなくちゃね」
「………」
回された腕に少し力がこもる。
ほんの少しだけれど、さらに距離が縮まったように感じる。
大きな彼に包まれる。
におい、男の人の体、あったかさ。
うん、幸せだ。
「…好き」
「…俺も愛してる。さて、俺のお願いも聞いてもらえるかな?」
………。
「嫌な予感しかしないから断る。ごめんね、休憩おしまい」
「つれないな、ハニー」
「くっ……」
立ち上がろうとするが、腕が外れない。
「…はあ。何がお望みで?」
「それはもちろん、を食べたい」
「………っ!」
もう既に耳を食べてるじゃないか!
「ホントに可愛いな。耳だけじゃなく、全身で俺を感じさせてあげるよ」
「バカ…」
この変態め。
「ちょっ、ちょっとベルナルド?」
「何だい?」
「その…今、ここで、するつもり?」
確実にボタンははずされていっているわけですが。
「それも悪くないと思わないか?俺もそんなに我慢できる方じゃなくてね、ハハハ」
「笑いごとじゃなっ…!」
うなじを唇が滑る。
「こ、ここがどこだかわかってるの?正気?疲れ過ぎてるんじゃないの?」
「いつもと違う場所っていうのも燃えるよ?」
そういう問題じゃない。
「もっ…ホントにやめてよ…!」
シャツの中に手が入ってくる。
どうしよう、どうしたら止まるんだコレ。
「お疲れちゃーん…と、ワオ」
「おかえり、ジャン」
「………っっ!!」
ジャ、ジャ、ジャ、ジャン!?
っていうか何普通に何事もなく挨拶しちゃってんの、ベルナルド!?
「お邪魔だったみたいネ、失礼」
「ハハハ、お気遣い感謝するよ」
「おかしい!絶対おかしい!!」
「ん?」
背後でベルナルドが小首を傾げたのがわかった。
そんなことしても可愛くないし!
いや正直可愛いけど!
「俺も参加していいのけ?」
「んーそうだな…ダメ、かな」
「そんじゃまたあとで。カギくらい閉めとけよなー」
あっけらかんとジャンはそのまま出て行ってしまった。
「…ベルナルド」
自分でも驚くほど低い声が出た。
「な、何かな…」
さすがにベルナルドも察してくれたらしい。
焦りが見える。
「離して」
「あ、ああ」
ようやく解放され、立ち上がり距離を取る。
ボタンを直しながら、背を向けたまま彼に告げた。
「ベルナルド。今後こんなことがあったら本気で許さないから」
「…すまん。悪かったよ」
「いい機会だからしばらくおあずけにしよう」
「それは困る!」
「っ!」
すごい勢いで抱きつかれてしまった。
あれ、私今こういうのを禁止したはずなんだけど。
「に触れられないなんて、仕事も手につかない」
「…それは大変ですね」
「ああ、大変だよ。つまりそれだけ、俺にとって大事ってことだ」
どうしよう。
もう許しかけてる私がいる。
「と、とにかくここじゃダメだからね」
「かしこまりました。やっぱり部屋で思う存分…」
「ベルナルド?」
「ハハ、仕事を頑張るとしようか…」
ベルナルドが戻っていく。
ぬくもりが消えてしまった。
ほんの少し、名残惜しかった。