女の子には秘密の一つや二つくらい 「先輩」 「んー?」 「何してんスか?」 「大真面目に宿題やってんの」 何でこの後輩は人の教室にいるんだろう。 私の前の席に座って、こちらをのぞきこんでいるんだろう。 「「………」」 視線が、痛い。 「ああもう、今日提出なの忘れてたのよ!何とか無理矢理頼んで4時半まで延ばしてもらってるの!」 「じゃあそれ終わったら一緒に帰りましょう」 何でだよ。 「帰らない」 「何でっスか!?」 こっちのセリフ。 「正直、私が黄瀬くんと一緒に帰る意味がわからないんだよね」 「何でっスか!?」 「それもう聞いたし」 「なかなか冷たいっスよね、先輩…」 「私は至って普通よ」 「先輩は」 「ん?」 「俺のこと嫌い?」 「―――」 普段はウザ……可愛い後輩のくせに。 モデルの時とか、きっとそうなんだろう。 この真剣な目。 見透かされそうで。 怖い。 「ぅあっ!?」 目をそらそうとしたら、現実を見てしまった。 「はいっ!?」 「ちょっヤバ!あと5分じゃん!黄瀬くんのバカ!バカ黄瀬!」 「ヒドイっスよー」 「よし、終わったあ!じゃあね!」 「待ってるっスよー!」 「帰れ!」 そう、わからない。 わからない。 私の気持ちも。 「…ホントに、待ってるんだ」 「待ってるって言ったっスよ?」 「珍しいね、黄瀬くんが一人なんて」 彼の周りには、いつも誰かがいる。 それが私である必要がどこにあるだろう。 「先輩は、俺がみんなを帰らせたって言ったら信じます?」 「え?」 「先輩のことを待つからって言って帰ってもらったんスよ」 嘘…。 誰にでも優しくて。 誰にでも優しいから、誰かが特別なんてないのが黄瀬くんでしょ? 「…信じない」 「そうスか」 「だって信じたら」 「?」 だって信じたら。 「認めなきゃいけなくなっちゃうもん」 「はい?」 「今は秘密」 その時が来てもどうか。 私を拒絶しないで。