のれんのへし折り、馬の首
「おい、永田!本気なのか!?こんなどこの馬の首とも知れない女が俺の家庭教師だと!?」
くび?
「左様でございます」
まだ引き受けたわけじゃないんですけど!
「俺は認めん!どこの馬の首とも知れな」
「骨」
「What?」
二度も同じことを言ったのだ。
聞き間違いでも、言い間違いでもない。
「馬の、骨」
「………」
………。
「今日からあなたの家庭教師をさせていただきます、です。よろしくね」
ああ、決めた。
今決めた。
こんなつもりじゃなかったのに。
「断る!」
「"馬の骨"くらい私にだって教えられる!」
「俺は認めんと言っているだろう!このperfectな俺に家庭教師など不良だ!」
「………」
"不要"、かな。
「言い返す言葉もないか?」
「微妙な間違い過ぎてツッコミができなかっただけ!"不要"でしょうが!どこがパーフェクトだ!」
「違う!perfec…」
「そんなことはどうでもいい」
「っ!?」
このルックス。
異常、とは言い過ぎかもしれないが、ものすごいカッコイイ。
そして高圧的な態度。
かなりムカつく。
だのに。
頭が悪いんだ。
どうしようもないくらい。
多分。
英語は綺麗な発音だし、得意なんだろうが。
「…許せない」
「何だと?」
「私にできる範囲でなら、アンタに勉強を教えてやるっての!」
「そんなものは必要ない!俺は勉強なんかしない。いくらお前がやる気だろうが、のれんのへし折りだ」
折るなよ。
「のれんに腕押しね」
そんなに日本語がダメなら英語でしゃべればいいのに。
いや、ダメだ。
私が理解できない。
「まあそんなわけで…日曜日にね!」
「What?」
「永田さん、真壁くんの日曜日の予定は?」
「1日フリーでございます」
「よし、決定。何時頃からがいいかなあ」
「なぜ俺を無視する!」
かかった。
「ごめんね、真壁くんがそんなにやる気だったなんて」
「いや、俺は…」
「何時?」
「だから」
「何時?」
「…1時だ」
押しに弱いタイプで良かった。
「じゃあ、日曜日の1時ね。今日はこれでお暇します」
「糸魔?」
「よくわかんない間違いをしない。今日は帰るって言ってるの。日曜日、楽しみにしてるからね?」
勢いで家庭教師なんて引き受けちゃったけど、ホントは出来る気がしない。
大学だって出てないし、特別頭がいいわけでもない。
というか、成績は中の下だった。
そんな私が、どうして選ばれてしまったのか。