日常の戯れ



立ち上がった彼に背後から抱き付いて、深呼吸する。
ん、いいにおいだ。

「ベルナルドは大きくて安心する」
「ルキーノの方がいいんじゃないか?」

ははは、以前言ったことを根に持ってるな。

「体格的にはね。でも、ベルナルドは好きだから安心するの」

なんというか、ルキーノの大柄さは抱き付き甲斐がある感じがする。
ベルナルドはやっぱり…。
好きだからくらいしか理由が思い付かない。
失礼ながら、この痩せた体に頼れるとか言い難いしね。
言わないであげよう。

「それは嬉しいな。しかし、俺が抱き締められないのは切ないよ」
「恥ずかしいから結構です」
「珍しく“好き”なんて言うからには誘われているのかと思ったんだが…」
「違う!」

背中をバシ、と叩く。

「なんでそういう方向にいくかな」
「愛しくて仕方がないからさ。すぐに枯渇してしまうからね」

えっ…私の愛情ってそんなに足りないだろうか。
積極性はないけど、精神的には伝えているつもり、ではある。
ああ、考えてみればベルナルドは随分直接的ね。

?」
「ん?」

私が黙り込んだせいか、ベルナルドの不安そうな声が聞こえてきた。

「自惚れでなければと祈るけれど、俺はに愛されているつもりだ」

腰に回していた左手を取られ、何もない薬指を撫でられる。
信じることは、本当はまだ怖い。

「………」

それでも好きというのは、わがままだろうか。

「そしてもちろん俺も愛してる。そうするとね、が欲しくて…欲しくて堪らないんだよ、いつも」

熱のある言葉に、火照る。
こんな言葉をもっと近くで聞いてしまったらどうなるのか。
知らずゴクリと喉が鳴った。

「ベル、ナルド…」
「ん?」

いつもの優しいだけの声とは違う。
ずるい。
そのまま奪ってくれるなら、口先だけの拒否もできる。
でも、私は今、自分から。

「…こっち、向いて」
「それからどう致しましょうか、姫?」
「…っ!い、言わなきゃ、だめ?」
「仰せのままにしたいだけさ」

この…この…っ!

「どうして欲しい?」

喉がカラカラだ。
なんとか消え入りそうな声を絞り出す。

「キス、してよ…」
「それだけで満足かい、マイスイート」

心臓がバクバク鳴っていたが、不意に静まり頭にかっと血が昇るのを感じた。

「その言葉、そのまま返す。それだけで終われるとは思えないけど?」

ベルナルドの体が震えだした。
何事かと思ったけれど、漏れ聞こえる声で笑っていることに気付いた。
もう一度背中を叩く。
今度はもう少し強めに。

「ちょっと!」
「いや…フ、ハハハ…!ハハ、まさかそう来るとは思わなかった、ハハ…!」

笑いながら振り向いたベルナルドは既にムードぶち壊しで萎えているかと思いきや、見つめられるだけでぞくりとした。

「君の言う通りだ。それだけで満足するような子供じゃない」
「…そりゃ、子供じゃないでしょ。年齢的にはそろそろオジサ」
「お兄さん、と言って欲しいね。」
「ハイハイ、おにーさん」

めんどくさくなって明後日の方向を見ながら言ってやると、ベルナルドの指が私の顎をとらえる。

「怒っちゃった?」
「まさか。大人のお兄さんということを証明しようと思ってね」
「ふーん」
「そういう冷たい顔も悪くないな」
「ベルナルドってさ、意外とM?」
「さあ…でもが泣きそうに感じてる姿はすごくい」
「もういいよ、黙っていいよ」
「じゃあ、唇を塞いでくれないか?」

恥ずかしさも一周するとどうでもよくなってくるものかな。
バーカ、と言うことは忘れず、自らキスをした。