眠り姫となる君に口付けを



煙草の匂いに、煙にそろそろ目眩がする。
大の男5人が一室に集まり、そしてオマケで私。
今すぐ換気をしたいところだけど、窓を開ける度に刺すような冷気。
それに耐えようと防寒すれば抗えない眠気が襲ってくる。
もう限界だった。

「煙草ってさ、目が覚める?」

新しく火をつけたジャンに聞いてみる。
イヴァンは殺気立ってるし、ルキーノも疲れとイラつきが見えるし。
いつもは少量でいいというベルナルドも吸殻で山を作っている。
ジュリオは吸っていないけど、みんなそれぞれもうちょっと頑張れそうな感じがする。
いい意味じゃないけど。

「んん?何だろうな、一種の鎮静剤みたいな?っていうか、俺なんで煙草吸ってんのかしら…」
「あ、変な事聞いてごめんね!ジャン!戻ってきて!!」

視線が明後日だ。

「今日を超えればこの地獄から脱出だ。なんとか持ち堪えてくれよ」
「ファックファクファーック!もう限界じゃ!」

此処の修羅場ってホント修羅場。
よく死人が出ないもんだよ…。

「んっ!?」

衝撃を感じるとそこにはぐっさり刺さった私のペンが…あれ?

、もう限界だろ?休んでいいぜ」
「でも…」

正直その甘い言葉で魔法のようにまぶたが落ちそうだ。

「あとは俺たちだけで何とかするさ」
「これ以上はさすがにさせられんな」
「無理は、しないで、ください」
「書類ボロボロにされちゃたまんねーよ」
「ヨシ、カポ命令。一足先に夢の世界へ」
「…グラッツェ」

この場で倒れそうだけど、それだけはダメだ。
みんなまだ闘ってるんだから…。
でもダメみたい。
眠過ぎて吐きそう。

「あー…ベルナルド。運んでやって」
「ああ、こりゃ大丈夫じゃないな。そうさせてもらうよ」
「オイ、テメェもそのまま死ぬんじゃねぇぞ。戻って来いよ」
「ハハハ、そうできたらどんなに幸せな事か」

ベルナルドにふわりと抱き上げられた。

「ありがと」
「怒らないのかい?」
「今はいいの」

ベルナルドがいつものいい匂いじゃなく、煙草の匂いが染みついちゃってるのが残念だ。

「イチャついてないでさっさと行け。カーヴォロ」
「ベルナルド、仕事はまだ残っている」
「ああ、スマン」
「んじゃオヤスミ、
「おやすみなさい」





「無理をさせてすまないな」
「んーん、ひ弱な体で申し訳ない」

ベッド気持ちいいな。幸せ…。

「頼りにしてるよ」
「私にできることなら任せといて」

ベルナルドは戻る気配がない。
私が寝ちゃえばいいのかな。
目を開けてられないし…。

「んっ…!?」

唇の感触に目を開くと、キスされていた。
何してんの!?

「ちょ、ベル、ナルド…っ!」
…」

いつもより甘い…甘い?

「…いきなり何すんの」

ちょっと眠気飛んだし。

「いや…我慢できなかった。ハハハ」

ハハハじゃないでしょうよ、バカ。
ていうか、煙草の味がすると思ったんだけど…。

「飴でも舐めてた?」
「ご名答。たまには糖分もとらないとね」
「私は飴玉なんてカワイイものじゃなく、たっぷりのドルチェ希望」
「この仕事が終わったら、ね」
「もちろん。それにしても、煙草やめてこっちにしたら?」

またうとうとしてきた。

「煙草はイヤ?」
「正直。あとキスの時も苦いし」
「………」

あれ?ショック受けてるの?と思ったら、なんか生き生きしてる。
この人寝てなくておかしくなったのかな。

「そうか。こういう甘いキスをご所望か」
「へ?何言ってんの?」

そりゃキスは嫌いじゃないですけども…。

が希望を言ってくれるなんて珍しいからね」
「そういうつもりじゃない」
「いや、吸えないに苦みを覚えてもらうのもロマンがあるな…」
「ない。そんなのにロマンとかないから」

誰か助けて。
ベルナルドがいつもよりもっと変態です。
疲れて寝不足のせいか気だるげで、妙な色気を感じる。
私はこれから素敵な眠りの世界へ旅立つはずだったんだけど。

「ベルナルド?もう戻らないと…」
「悪い。スイッチが入った、かもしれん」

かもってことはまだ間に合う!

「ダメ。切って!オフ!」

じわじわと迫ってくる。
どうしよう、マズイ。
これはマズイ。

「ベルナ…えっ!?」
「何だっ!?」

ドアが蹴られた。
ノックも無しに、蹴られた。

「オイコラ、駄眼鏡!いつまでダラダラしてんだ!さっさと戻れこのタコ!」

…イヴァンだ。
イヴァンがガンガンドアを蹴っている。
開けようとしないのは残ったわずかな理性なのか、そもそも選択肢にないのか。

「…そうだな。行かないと」

ありがとう、イヴァン。
助かった。

「続きはあとで。ドルチェも一緒にね」
「ドルチェは別にして」

いい予感がしないから。

「おやすみ。マイスウィート」
「一足先に夢の国に行ってきます。おやすみなさい」

今度は額にキスが一つ。

「いい夢が見られるよう、おまじないだよ」