何も届かぬなら、せめて
私の恋はあまりにも特殊だ。
きっと探せば変わった恋をしている人はいる。
この恋はいつ終わってしまうかわからない。
この終わりは、永遠に…。
「会えなくなるのは、これに限ったことじゃないのか」
人は死ぬ。
命は終わる。
その後は会えない。
「?」
そういう意味でなら。
私の恋はひどくありきたりだ。
「私って案外普通なんだなって」
「………」
「アーチャー、何。その顔何なの」
「いや…そうか。君も普通の女の子か」
「おっ女の子!?」
言われ慣れない言葉にドキッとする。
「…言われ、慣れない。ごめん、私その時点で普通じゃない…」
自分で言って落ち込む。
アーチャーは興味がないのか、キッチンに行ってしまった。
私の気分を上げてくれるためかしら。
和らげるような紅茶の香り。
こんな時間がずっと続けばいいのに。
「どうぞ、」
「ありがとう」
時々余計なことを考えて辛くなるよ。
毎晩夢の中で更新される情報が多くて知りすぎる私なのに止める術がなくて。
「あなたは今幸せ?」
「今日はどうしたんだね?」
ずっと傍にいて。
未来を潰さないで。
少しでも安らぎを感じるなら私と共に。
「…こんなに美味しい紅茶を淹れてもらえる私は幸せ者だなって」
力ずくでも止めたいのに、臆病になって本当のことなんて言えやしない。
「こうしてマスターと穏やかな時間を過ごせるのは幸せなことだろうね」
「………」
拒絶された。
途端苦くなる液体を一口啜って無理矢理飲み込む。
少しでも間を置かないと怒鳴り付けて壊してしまいそうだったから。
そんな一瞬の感情で変わってくれるなら、この人は自身の終わりを望み続けたりしないんだ。
「あのね、私」
なんと言えば届くだろう。
「あなたに、傘をさしてあげたい」
その手を取りたい。
心まで抱き締めたい。
そんな遠い願いよりも。
もっとささやかな。
「どう解釈すればいいのかね?」
アーチャーは本気で悩んでくれたらしい。
「ふっ…あははっ!ご自由に!」
あなたが最期に思い出してくれるのが、私ならいいな。
すっかり冷えた茶器を片付ける。
「傘か…」
今がどれほど愛しかろうとも。
俺は。
「剣が錆びても、あれを始末する」