魔法ってすごいや。
私にも使えるはずだって?
断言しよう。
無理だ。
火消しにゃ水を持て
「火が、火で、獣に…!?」
炎の獣は有利に襲い掛かったが、またしてもすんでのところでよけた。
しかし、獣の勢いは止まらずに。
「危ないっ!」
運悪く。
運悪く居合わせた女の子を弾き飛ばして。
消えた。
ドクン。
心臓の音が全身に響くような、感覚。
綺麗に晴れていた空は、黒雲で満たされた。
息も出来ないくらいの豪雨。
「己れの敗北を受け入れず、規則を無視した暴走行為。果てには罪もない少女を巻き込み、それでも貪欲に勝利を欲する」
有利?
妙な時代劇口調で話す彼を私はぼんやりと見つめていた。
雨が、うるさい。
「成敗っ!」
すると、二匹の蛇が現れた。
そしてヴォルフラムに絡みつき、自由を奪う。
「おーい、気がついたぞ!命に別状はないようだ」
そこまでで、私の意識は途切れた。
ぼんやりと目を覚ますと、白い天井があった。
あれえ、私は確か中庭に居たんだけど…。
「目を覚ましましたか」
「あ…コンラッド」
体を起こそうとしたけれど、途中でこみ上げてくるものを感じて止まる。
「うっ………」
「陛下!?」
「はぁっ…なんか、すんごい気持ち悪い…」
「水を持って来させるよ」
そう言ってコンラッドは出て行ってしまった。
えーっと、何があったんだっけ。
そうそう、有利とヴォルフラムが決闘をして…。
魔術で…。
「女の子!」
「大丈夫ですよ」
「そうなんだ、良かった…」
水を飲むと吐き気は少し落ち着いた。
決闘は有利の勝ち。
有利が魔術を使った後、私たちは倒れてしまったらしい。
私は一日眠っていて、有利は未だ目を覚ましていないそうだ。
「何で私まで倒れるの?おかしくない?」
「これは俺の憶測なんですが…あなたはユーリ陛下と魔力を共有していらっしゃる、またはあなたの魔力を貸したようなことになったんじゃないかと」
「…そんなのできるの?」
「あくまで憶測です」
「ふーん」
まぁ確かに、雨が降る前に変な感覚になったっけ。
そういえば。
「コンラッド、有利に渡してた青い石なんだけど…」
「あれが何か…あ、すみません。あれは一つしかなくて…」
「ううん、そういうことじゃなくて。あれ、何なのかなって思って」
「あれは、俺の…友人がくれたものなんです。ヴォルフと戦う時にユーリ陛下の役に立てばと思って」
友人、か。
「あのさ…私、あれを見た時に“懐かしい”って口走ってたの。コンラッドを初めて見た時といい、私どうしちゃったんだろ」
「………」
コンラッドがいつもの笑みを忘れている。
「コンラッド?」
何か言ってはいけないことを言ってしまっただろうか。
「そういえばグウェンがあなたははじめからこちらの言葉を話せたと言っていたっけ…なるほど」
「コンラッド?」
「陛下!お目覚めになったのですねっ!」
「ギュ、ギュンター!?」
ギュンターが泣きそうな顔で部屋に飛び込んで来た。
「どこかおかしいところはございませんか!?」
強いて言うならギュンター、あなたが。