やっぱり言っちゃいけないことってあると思うわけ。

自分のことはいくら言われても耐えられても。

身内のことをそこまで言ってくれちゃあ。

どんなに温厚な人だって堪忍袋の緒ってのはあるんだよ。




   愛と憎しみは紙一重というけれど



「魔族の代表の一人として願うよ。民の期待が高まらぬうちに、我々の前から消えてくれ」



目の前で話が展開されていく中、自分の前にある皿を見つめることしか出来ない。



「二人は本物だよ、グウェン」

「なぜそう言い切れる?」

「俺が二人を間違えるはずがない」



どうして、という疑問の前に胸の熱が鎮まっていく。



「何の証拠がある!適当なことじゃ誤魔化されないからな!」

「お前を納得させられるような証拠は、あいにく俺には示せないな」

「だったらそんなこと断言するな!だいだい、魔王の魂の持ち主だったとしてもだ、所詮人間どもの間に生まれた卑しい身分じゃないか」

「ヴォルフラム、生まれに身分も卑しいもないよ。それは生きていく過程で、自分自身の行動によって決まるものだ。
 けれどお前がそんなにこだわるなら教えておく。陛下の御魂はあちらの世界の魔王陛下に預けられ、そのお方がご自分の配下から、然るべき身分の方をお選びになった。
 …ユーリ陛下の場合はそれが御尊父だから、この世界のものじゃないとはいえ、魔族の血が流れているのは確かなんだ」

「親父が悪魔!?」



有利の場合、は?



「ではその女はどうだというんだ!」

「…陛下は御尊祖父が魔族であらせられる」

「お、おじいちゃんが!?」



な、なんですって!?
あの虫も殺さないような超優しくて孫に甘いあのおじいちゃんが魔族!?



「祖父だと!?」



私は魔族のハーフですらないらしい。
そのことにこれまで以上にお怒りになる天使。



「はっ、お前には半分、そしてお前には半分以下しか魔族の血が流れていないというのか!」



わざわざ私達をそれぞれさしてくれるなんて、律儀ね。



「どうりでコンラッドと話が合うはずだ、どちらも“もどき”だからな!
 残りは汚らわしい人間の血と肉、どこの馬の骨ともわからない、尻軽な女の血が流れているんだろう?そんなやつに…」



私が思わず立ち上がるのと、どちらが早かっただろう。
パァンと乾いた音が響いた。
ヴォルフラムの綺麗な顔の、左頬に綺麗に決まったあとがある。
有利のビンタが。



「陛下っ、今すぐ取り消してください!」



あれ、コンラッドが慌てている。



「嫌だねっ!」



そう言うとものすごい速さでまくし立てる。
マシンガントークってこういうのを言うんだな。
あっけに取られてしまう。
そして。



「絶対に取り消さないからな!」



と言い切った。



「素敵!求婚成立ね」



は?誰と誰の?