ちゃんとしつけてるって言ったじゃん。 私はまだ死んでないってのに。 馬から落ちて死ぬなんて…。 誰かコイツを止めてくれ!    天使と爽やかと不機嫌と 王都にようやく着いた感想は…一言では表せなかった。 というか、言葉で表せない。 簡単な言葉でいいなら、すごい、という表現がぴったり。 真っ黒なお馬さんの名前は有利が「アオ」、私は「アカ」にした。 アオというのは馬の名前で主流らしい。 私の脳内では“青”と変換されたので、対のように“赤”とつけただけだが。 名前とは正反対にお転婆なアオであったが、王都に入ってからは猫を被った様に大人しくなった。 アカははじめから大人しかった。 何度か落馬はしてしまったが、それは私の技術の問題だそうで。 「ねえ、コ…コン…」 「…コンラッドで構いませんよ」 コンラッドは、少し悲しそうに笑った気がした。 私があの時口走ったのは、この人の名前だった。 「この世界の人の名前って難し過ぎる」 長くて覚えにくい上、発音しにくい。 「そのうち慣れますよ」 「そうかなあ」 「あのさ、そのスピッツだかスピルバーグだかいう人は…」 そう有利が言いかけた時、アオが突然暴走し一直線に走り出した。 「ちょっ!ええっ!?」 隣にいたアカまで驚いてものすごいスピードを出す。 これがジェットコースターならまだ楽しみようもあったかもしれないが、この先どうなるかもわからないスリル感はいただけない。 後から何か聞こえるが、そっちに気を取られたら落ちる。 絶対落ちる。 どうか無事に地に足をつけることが出来ますように、と魔王(仮)のくせに神様に祈りながら、目をつぶって必死にアカにしがみついた。 飛んだりパフォーマンスをしてくれているらしいが、止まれ。 とにかく止まってくれ。 「………?」 願いが通じたのか。 多少角度はおかしい気がするけれど、アカは停止。 何かが落ちた音が聞こえて目を開けると。 「ゆ、有利…大丈夫?」 落馬したらしいアオの主人が、仰向けで天井を見ていた。 「陛下、お怪我は!?」 コンラッド達がようやく追い付いてくれたらしい。 落ちないようにと思い切り力を入れていたので、筋肉がずいぶん疲れた。 ずるずると馬から降りる。 不恰好だけどこの降り方、安全かも。 「それが新魔王だというのか!?」 癇に障るようなアルト声が響き渡った。 またしても超美形。 金髪にエメラルドグリーンの瞳。 この世界に来て一番に彼と出会っていたら、私は彼を天使と信じて疑わなかっただろう。 「グウェンダル…いえ兄上、素性も知れない人間どもを、王として迎え入れるおつもりですか!?」 美人って怒ると余計美人っていうよね。 「ぼくはこんな薄汚い人間もどきを信用する気になれません!  見たところ知性も威厳も感じられない、その辺の街道にでも転がってそうなやつらを…」 「ヴォルフラム!」 ギュンターが言葉を制する。 「なんという畏れ多いことを!陛下が広いお心をお持ちでなかったら、今頃あなたは命を落としているところですよ!」 へーかって、私達のこと? 有利と顔を見合わせる。 「口を慎みなさい、陛下を畏れぬ物言いは、たとえ王太子のあなたといえども許せません!  コンラートのことを悪し様に言うのもおよしなさい、仮にもあなたの、兄上なのですよ」 えーっと、目の前の天使がヴォルフラムで? グウェンダルが兄。 コンラッドも…兄? 「うっそだあ!」 「似てねえー!」 「それぞれ父親が違うんだ」 コンラッドがにこやかに言う。 すんごい三兄弟だ。 じゃあ、全員父親似ってことで。 だって母親が同じだとしても似なさすぎだろう。