ああ、やっぱりこれは夢じゃなかったのか。 朝からとても不機嫌そうなお顔を拝見。 今日は後ろでお願いします。 それより、どうして私は馬に乗れるようになっておかなかったんだ! ふー あむ あい ? おはようございます、と挨拶してみたところ、一瞥されておしまい。 すみませんでした。 庶民ごときが礼儀を知りませんで。 それでも馬にはやっぱり同乗。 だが、今日は後ろに乗らせていただいた。 しがみつくのもそれはそれで緊張するんだね。 でもおかげで落ちないと思います。 「この辺で合流予定の筈だが…」 合流? …合流するお相手が、グウェンダルさん的な人だったらどうしよう。 そんなにおしゃべり好きなわけじゃないけど、しゃべらな過ぎて結構辛い。 これ以上気まずいのが続くのは、勘弁していただきたい…。 「陛下っ!?」 お?と振り向くと、濃い灰色の長い髪をなびかせながら美しい男性がこちらへ向かってくる。 なんてイケメン揃いなのか。 男じゃないけど、こんなところにいるのが申し訳なく感じてしまうな。 女優さんとか、そういう人といれば絵になるんだろうけど。 「まさかお二人ともお美しい双黒をお持ちでいらっしゃるとは…!」 あれ?この人、私に向かって話しかけてる? 嫌だなぁ、陛下はグウェンダルさんでしょ、とか思っているとグウェンダルさんが馬を降りて私を降ろしてくれた。 「このギュンター、陛下にお会いできるのを心待ちにしておりました!」 「…へいか?」 「はい!黒髪に黒い瞳、そして黒いお召し物…両陛下ともなんと素晴らしい!」 「いや、陛下ってこの人でしょ!?」 大変興奮しているギュンターさんに、びしっとグウェンダルさんを指さしてやる。 「グウェン、説明していなかったのか?」 「えっ!セーラー服!?」 また新たな声。 学ランを着た男の子と…。 「…コンラッド」 ふと口から、何か言葉が零れた。 「え?」 「コンラッド、知り合い?」 「いや…」 「え、あ、私今、何か言いました!?」 「ああ。コンラッドって」 コンラッド? 無意識に口走ったらしい。 そんな名前、聞いたことない。 「とりあえずお互い自己紹介が必要かな」 さわやかなお兄さんが話を進めてくれた。 「俺、渋谷有利。君ももしかしてスタツアしたの?」 「スタツア?」 「言いにくいんだけど、俺水洗トイレから流されてきちゃってさ」 なんという死因。 私より可哀想じゃないか。 「そうなんだ、それは可哀想に。でも天国に来れて良かったね」 「は?」 私の言葉に全員が固まった。 「…グウェン」 「私は聞かれた覚えもない。魔王である以上ある程度承知済みだろう。言語も問題なく話している」 「ま、おう…?」 まおうって魔王? ゲームではラスボスだったり、とにかく悪役な例の魔王!? 「えええええっ!?」 「なんか俺、今知ってしまったこの人がとんでもなく不憫に思えるんだけど」 「何!?何が魔王!?ここ天国じゃないわけ!?一体どうなってんの!?」 とりあえず説明をまとめると。 私と渋谷君…もとい有利は魔王である、ということ。 グウェンダルさん…グウェンダルは部下であるということ。 双黒ってのはすごいってこと。 ここは地球じゃないってこと。 嘘だあ。 「………」 「やっぱ混乱するよなぁ」 「混乱どころじゃないよ」 同じ境遇の人間がいるってだけマシだろうか。 「陛下たちには、王都に入ってからお一人で馬に乗っていただきます」 「「一人で!?」」 思わずハモる魔王(仮)二人。 「ええ、走らなくていいですから。国民に堂々とした姿をお見せいただければ」 堂々となんか乗れるはずがない。 有利と顔を見合わせていると。 「さ、陛下たちにお似合いの真っ黒な淑女です」 他の馬たちとはずんぐりしていて足も太い、これを愛嬌があるというのか。 それはもう真っ黒なお馬さんが登場した。