ねえ、どうして?
どうして私は魔術が使えないの?
ねえ、どうして?
それなのに、どうして私は魔王なの?
誰もがあなたを
有利は魔術が使えた。
なのに、同じく魔王であるはずの私はそれを呆然と見ているだけだった。
それが二度も。
私は見ているだけで、いつの間にか気を失っていた。
ねぇ、コンラッド。
あなたは私と有利が魔王である証拠を示すことはできないって言ったよね?
有利はきっと魔王だよ。
だけどね、私は魔王じゃないんだ。
間違われちゃったんだよ。
「………」
私は一つの決意を固めた。
誰にも見つからないように部屋を出て、細心の注意を払って歩き出す。
幸い、見張りの人はいないようだった。
まぁいないわけはないだろうから、出会わなかっただけだろう。
「陛下?」
「っ!?」
後ろから声をかけられて、心臓が止まるかと思った。
いや、一瞬止まったんじゃないか?
全身の筋がどうにかなるんじゃないかというほど、私の体はビクンと固まった。
ギギギ、と音が鳴りそうなくらいぎこちなく首を向ける。
ああ、やっぱりそこには。
「コ、ココココンラッド」
「どうしたんです、こんな時間に」
「ちょっと、眠れなくて、ね」
もちろん嘘だ。
「散歩ですか?付き合いますよ」
「一人になりたい気分、だからー…」
嘘でもあり、本当だ。
「危ないですよ、夜なんですから」
確かに女の子が夜に一人で出歩くんじゃありませんって言うけどね?
「コンラッド、は」
「はい?」
私が魔王だと思う?
「………」
口に、出せない。
否定されたらどうしたらいい。
いや、この人は否定しないだろう。
「陛下?」
「わ、私…」
最近ずっと寝不足なんだ。
有利が魔術を使ってから、満足に眠れない。
皆私が魔王じゃないと思うなら言えばいいのに、この城から追い出せばいいのに。
そんな風に思いながらもここに留まる私はなんて愚かなんだろう。
私は何のために魔王になるなんて言ったんだっけ?
「眞王廟に、行こうと思って」
「え?」
あの灯りが目印なら、いつか辿りつけるだろう。
馬鹿な考えだってことはわかってる。
だって、あそこ山みたいだし。
だけど、それで私がいなくなるんなら、それを喜ぶ人だっているんじゃないか。
「どうして?」
「………」
「陛下?」
声が震えるのを、抑えられない。
「本当のこと、知りたくて。私、きっと、魔王じゃないもの。魔術も使えないのに…魔王なんて資格ない。だから」
床がぼやけて見える。
涙が、ギリギリのところで止まっている。
「最近あなたの顔色がすぐれないと思ったら…そういうことですか」
「コンラッドだってそう思ってるんでしょ?魔王なんて一人で十分!!」
「」
いつの間にか、コンラッドはひざまずいていた。
真剣な目。
「あなたも魔王陛下です」
「そんな、証拠…」
どこにもないじゃないか。
目を合わせられなくなって、そらす。
その拍子に涙が落ちてしまった。
「大丈夫、眞王陛下の御意思だから。お二人でこの国を治めるようにと」
コンラッドが私の手を取って口付ける。
「俺はあなたに忠誠を誓ってます。もちろん、この国の皆がそうですが」
あれ、どうしよう。
感動とかでなく、顔が熱くなってきたんですが。
恐らく今真っ赤だ。
「ほ、ほんと…?」
本当は聞くまでもない。
もう十分にわかった。
「はい」
そう言ってコンラッドはいつもの笑みを見せた。
立ち上がったので、それを目で追うといつものように見上げる形になる。
「魔術は魔力さえあればこれからいくらでも使えますよ」
「………」
そういえば、コンラッドは魔術を使えないんだっけ…。
「さ、部屋に戻りましょう。体が冷えますよ」
「…うん」
きゅ、とコンラッドの服を掴む。
「陛下?」
「ありがと、ごめん…。それと、有利を名前で呼ぶんだから、私のことも名前で呼ぶこと!」
「…かしこまりました、」
「よろし…」
体の力が一気に抜けていく。
ああ、私、寝不足だったっけ。
「おっと…安心して気が抜けたってところかな」
ここのところの彼女は確かに寝不足気味なようなところは見てとれたけれど、決してそれを見せようとしなかった。
それは気が張っていたせいだろう。
「誰もがあなたを歓迎しているっていうのに…」
俺だって例外じゃない。
確かに最初は驚いたけれど。
「今はあなたに出逢えて、嬉しく思ってるんですよ」