今日も彼はマシンガントークで正義を語る。 その一言一言に気付かされる。 ねぇ、そんな私でも。 隣にいてもいいかな。    宣戦布告に対するは 「だめだろ、こいつはつまり、紛争の捕虜だろ!?捕虜の扱いには決まりがあんだろ。さっき治療してた女の子も、怪我人は平等だって言ってたぞ」 「コンラート、このうるさいのをどうにかしろ」 一言発しただけの私は除外されたらしい。 「それは一般兵の話だろう、こいつらは首謀者だ」 「たとえ首謀者だって同じだ、勝手に死刑とかできるわけないじゃん!こいつにもちゃんと弁護士つけて、裁判開いて有罪か確かめて…」 有利は武器を持ち上げられもしない女の人にも、説得を試みる。 「おばさんも、こんな非常識な連中の口車に乗っちゃ駄目だ。いくら相手が偉い人だって、従っていいことと悪いことがある。  捕虜を勝手に殺しちゃいけないってことくらい、義務教育で習っただろ。中学の歴史か公民かなんかで、リンチになるから禁止だって」 「あたしは…そんな…」 「その女は教育など受けていない。貴族に楯突くと厄介だから、人間どもは民が余計な知識をつけることを嫌う。教育が義務だなど以ての外だ」 「何ですって!?」 教育が受けられないのは、地球でも聞かない話ではない。 だけど。 「どうして水かけて消さないの?」 「もう井戸に近付けないからですよ。それに術者の発した炎は、少々の水ではとても消えるものじゃない。  命じられた目標を焼き尽くすから普通の火事より広がるのは遅いけど、よほどの量じゃないかぎり、ただの水では太刀打ちできない。  グウェンダルは地術の練達者だから、土を盛り上げて遮断しようとも考えましたが、地下への影響が大きすぎて、森が犠牲になりかねない…。  水を操れる術士を待つしか、俺たちにできることはないんです」 水。 有利がもう一度使えればいいの? …なんて他力本願だ。 私も魔王だというのに。 腰に手を当てて立っていたヴォルフラムが、わくわくした声で兄に聞いた。 「我々の土地に対するこの襲撃は、宣戦布告の理由になりますか」 「…まあ、理由の一端にはな」 せんせんふこく? 「宣戦布告!?何言ってんのよ!」 「こっちから戦争しかけようってのか!?冗談じゃない、どうかしてる」 私達二人の言葉は無視された。 「…もう少し多角的に物事を考えろヴォルフラム。正規軍の兵士が一人として加わってないんだ。  この襲撃を布告の主たる理由にすれば、奴等は村をひとつ切り捨てるだけで逃れられる。必要なのは確実性だ」 あんたも乗り気か。 「では、奴等がこの国を思うままにするまで、指をくわえて見ていろということですか」 「おまえら、聞けーっ!!」 有利のスイッチが入った。 「専守防衛って知ってるか!?とにかく守るだけって意味だよ!自分から戦ったりは絶対しないって意味だよ!  現代日本は平和主義なんだ、戦争放棄してるんだ、憲法にもちゃんと書いてあるぞ!?  日本人に生まれて日本で育った、俺ももちろん戦争反対だ、反対どころか大反対だっ」 そしてコンラッドを指差して言う。 「地球だって人間同士で争いがあるって、さっき俺にそう言ったよな!?あーあるさ、全然ないってわけじゃない。  けどそういう時でも必ず、誰かが止めようと努力してたね!世界の人口の大半は、平和になるよう願ってたね!」 ああ。 そうだよ。 「おまえらの話の中身はどーよ!?もっと確実に戦争できるようになるまで、わざと黙って見てるだとー!?」 「…わめくな」 グウェンダルは顔をしかめた。 ああもう頭が痛いという感じ。 「これだけの惨状を見てよくそんなことが言えるわね!魔族だから何!?人間だから何!?それが何で争う理由になるわけ!?」 「話し合え、話し合いをしろってんだ!あんたの国の国民が、うちの農地を燃やしました。どうしてくれます、どう保障してくれます?  うちとしては絶対に戦争は避けたい、以後こういうことのないように、国内できちんと対処してくれますー?って、解決目指して話し合えってんだ!」 「わめくな異界人!」 「いーや喚くね、わめかせてもらうね!俺は二十歳までは日本人なの、魔王の魂持ってても、成人するまでは日本国籍があんの。  平和に関しちゃ日本のが、この国より優秀だと思ってるからさ、やめろって言われても言い続けるね!戦争反対、絶対反対、一生反対、死んでも反対っ」 「では一度死ぬか!?」 「やなこった!」 嘘、グウェンダルが、のった。 「王になる気もないお前達が、我が国のことに口を出すな!私には眞魔国を護る義務があり、国益を考える義務がある。  お前はニッポンだかいう場所のご大層な倫理と生ぬるい手段で、自分の育った国を守るがいい。  だが我々には我々の、魔族には魔族のやり方がある!」 はっ、それじゃあ戦争も眞魔国を護るためだっての? 国益だっての? 「だったら俺が変えてやるよっ。魔族のやり方だっつーのを、俺が一から変えてやる!」 この世界はもしかしたら地球よりずっと綺麗なのかもしれない。 だけど。 「お前ら綺麗でかっこいーけど、性格超悪で問題あり!人間差別とか危険な風習とか特権階級意識とか戦争好きとか。  だからってもう片方の人間側が、平和主義かっていうととんでもない!同じ人間同士なのに、魔族の土地に住んでるから襲っていいんだって!  そんなバカな話ってある!?戦争するのに神様が力を貸してくれるって、そんな物騒な信仰ってあり!?」 「陛下」 「あっちも絶対間違ってるけど、だからって俺たちが乗せられちゃ駄目だろ。自分達だけでも正しいことをしようよ、戦争するのは間違ってるよ」 悔しいな。 有利はすごい。 私、そこまでは考えられないもの。 「王様が戦争なんかダメだって言えば、国民はそれに従うんだろ?」 でもさ、私。 魔術も使えない、剣も使えない、馬にも乗れない、正義感も薄いけど。 そんな私は、もしかしたら魔王ではないのかもしれないけど。 世界の人口の大半が平和を願う、それはこっちでも同じなんじゃないかって思うんだ。 だったら。 「「眞魔国の魔王になってやるっ!!」」