私がここでできることは何だろう。 怪我人の手当てもできない。 ただ護衛に護られて。 ただ見ているだけなんて。 私の心には欠片でも“正義”があるだろうか 「有利、大丈夫?」 負傷者が集められた一角から、有利はふらふらした足取りで戻って来た。 私は血なんかが苦手なので遠慮してしまった。 …情けない。 「どうしてこんなことするんだろうな…食糧が欲しいからってこんなこと。 おれはヴォルフラムやグウェンダルみたいに、人間を軽蔑してる魔族の誰かが、嫌いだからってこの村を襲ったのかと思ってたんだ」 「どうして僕らがそんな無駄なことをしなければならない?ここは昔から魔族の土地だ、燃えればそれだけ自然が失われる。 それに森にでも火が届いてみろ、一年二年で復旧できるものじゃなんだぞ」 「どうして人間同士でこんなこと…。あんたたちが人間と敵対するのは、良くないことだけど解らないでももないさ。 つまり、えーと、うまく言えないけど、シャチとイルカが仲悪いとかそういう…けどそれはお互いが違うから生まれる不仲だろ、 それはなんとなくわかる気がするよ。なのに人間同士で争うってどういうこと?」 どういうことだろう。 私の心は冷めているのか、ぼんやりしているのかわからない。 「それじゃイルカ同士が傷付け合うみたいなもんじゃねぇ!?そんな無意味で残酷なことやってて、神様に怒られないってどういうことだよ!?」 コンラッドが低く言う。 「では」 火は消えない。 「陛下のいらした地球では、人間同士が争うことはなかったとでも?」 「…それは…」 「っ!?」 「これ…」 炎に照らされた馬上の人影…グウェンダルが大きな布のかたまりを、私達の前で放り出した。 ひとだ。 矢が刺さり、血を流して。 骨が。 「………っ」 崩れ落ちそうになった自分を、何とか支える。 一瞬しか見ることはできなかった。 グウェンダルはコンラッドと状況について話し始めた。 「あちらは直に片付く。といっても大半は国境を越えて逃走したが。この男がアーダルベルトが扇動したと吐いた。 どうりで手慣れているわけだ。兵士くずれがかなり参加している。その中に火の術者がいたらしい。炎の勢いはそのせいだ」 「一向に衰える気配がないよ。骨飛族の伝達が昼頃だから、術者が着くまではまだかなりある、それまで持ち堪えられるかどうか。 森だけは何とかして守らないと」 「ではそいつらは加勢ではなく、単に見物に来ただけか。それとも…あの時のように見事な水の魔術で鎮めてくださるのか?」 最初の言葉は私に向かってだ。 魔術、か…。 「兄上、どうやらこいつは覚えていないようなのです。あれは無意識下だからこそできた、幸運と呼ぶしかない奇跡です」 「奇跡、俺が?どんな奇跡を、俺が起こしたって?」 「どうせ役に立たないのなら、せめて邪魔にならないようにしてくれ」 …有利はさておき、私には本当にそれしかできなさそうだ。 肩を寄せ合う村人の中から、一人女の人が引っ張ってこられる。 兵が彼女に剣を持たせ、うずくまる敵の中に連れて行く。 グウェンダルが言った。 「そいつらがお前の村を焼いた。殺すなり晒すなり好きにするがいい」 「はぁっ!?」 「なんだって!?」 またお前らか、という顔で睨まれた。 それで結構。 だって。