目の前にいるのは悪者だ。 魔王十分も悪者な感じがするけど。 それ、当たったら死ぬ。 相手がミスをするわけがない。    嘘つきと忠義 「一番手っ取り早いのは…魔王を消しちまうってことだけどなっ」 「ちょっ!いきなり殺さなくたっていいでしょう!」 「歩いてだってこの国は抜け出せるんだしっ」 突然の敵の心変わりに、魔王二人は必死。 手を取り合ってじりじりと距離を取ろうとする。 ていうか、もっぺん気を遣ってくれないと死ぬ。 相手が持ってるのは決闘で見た訓練用じゃない。 明らかに実戦用。 「魔族に肩入れすると決めたんだろ。だったら俺にとっちゃ敵ってわけだ。魔族に力のある魔王を持たせたら、ますます厄介な存在になる!」 あれ? 「だってアンタさっきから言ってたじゃん!俺たちは普通の人間で、たまたま目と髪が黒いから魔王に祭り上げられてるだけだって。  あっちの世界から喚ばれちゃった被害者で、普通の人間だって言ってたのに!」 何かおかしくない? 「眞王がそんな戯れをするものか」 なんですと? 「はぁっ!?それじゃあ嘘だったわけ!?」 「俺たちが普通の人間だってのは、アンタの口から出任せだっただったのか!?」 「お前達は本物だよ、残念ながら」 本当のことを、おっしゃってくれました。 背中に硬い感触。 木だ。 どちらかを囮にすることもできず、魔王は二人仲良く木を背に並んだ。 繋いでいた手がじっとりと嫌な汗をかく。 こりゃ二人いっぺんに殺されそう。 剣が振り上げられ、もう終わりだと目を瞑った。 「………?」 今、何かに当たった音がしたのに、私は生きている。 まさか有利が!?と思い、目を開けると。 「コッヒー、なんでこんな…」 コッヒーが無残な姿になっていた。 「骨飛族のそんな行動は初めて見たな。主を護ろうと命懸けってことか。ちっ、変なもん斬っちまったぜ」 「変なもんってどういうことよ!」 「お前にコッヒーの何が解る!?」 何だろうね、コッヒーって。 「意思も持たない種族に同情たぁ、今度の魔王は庶民派だな」 「うるせー!俺は庶民派が売りだ、消費税引き下げが公約なんだよっ」 そう言って有利が骨を手に構えたところで。 心強い馬群が迫ってきた。 ああ、どうしよう。 不覚にも涙が。