人と人とが争う戦争。

これは私達の世界にもあった。

だけど、日本という平和な国にいる私達にとって。

あまりにも、現実味がなかった。



   それぞれが信じるもの




「そいつの話を聞くな!」



ヴォルフラムの掠れた叫びにはっとした。



「ヴォ、ヴォルラム!?」

「そんな奴の話を聞くんじゃない!その男は…その男は我々を裏切った…っ」



ヴォルフラムはひどく苦しそうだ。



「いーんだぜ三男坊!」



アーダルベルトが剣を抜いて切っ先をヴォルフラムの喉元に向けた。



「無理して声に出さなくても。ちょっとばかし魔力が高いと、完璧に術に支配されなくて損だよなぁ。
 もっと楽に意識を手放せれば、部下達みたいに楽しい気分になれたものを」



周りの兵はぼんやりと宙に視線を彷徨わせている。



「見ろよ、お前の大嫌いな人間どもが、魔族の土地を炎に変えてるぜ。ヴォルフラム、お前いつも言ってたよなあ。
 人間ごときに何ができる、あんな虫けらみたいな連中が魔族に刃向かうこと自体間違いだって」

「人間!?」



もう少しで抜けられる森の向こう側。
木々の隙間から見えた風景。

矢のようなものが飛び交って。
母親が子供を守って。
それをさらに兵士が守り応戦する。

何が、起きてる?
戦争だ。
人と人とが、武器を使い戦っている。



「あんたたち、人間同士で戦ってんのか?逃げてきた子供達がひっそり生活してる村を、人間の兵士が襲ってるのか!?」

「なん…で…」

「どうせお前の差し金だろうっ」

「オレはちょっと助言してやっただけさ。信仰する神の教えに背くなよってな」



税が重くて食べる分が残らない。
飢えるか、調達するか。
魔族の土地であれば、神も罪を問われることもないだろう。

ふざ、けるな。



「だってそんな、人間だろ、どっちも同じ、人間なんだろ!?」

「違うな、“同じ”人間、じゃない。この村の奴らは魔族についた人間だ」

「わっかーんねーよっ!」



私だってわからない。
歯を食いしばって涙を堪える。
悔しさとも怒りともつかない感情が心に渦巻いている。



「解らなくてもいい。とにかくオレは、お前らを連れ出してやりに来たんだ。お前らは魔族じゃなくて人間なんだろ?
 一旦魔族の側についちまったら、仲間とは思われねぇぞ」



アーダルベルトが馬を降りた。
するとヴォルフラムが低く囁く。



「行け」

「「え?」」

「見たところ、こいつらにお前達を殺す気はなさそうだ。無理に抵抗して傷でも負われたら面倒だ。今はアーダルベルトに従っておけ」

「でも」

「そうだよ、お前とか皆は…」

「構うな」



どうすればいい?



「早く行けユーリ!!」



ゆっくりとこちらに来たアーダルベルトが片手を差し出す。
レディーファーストとでもいうのだろうか。



「そうだよなあ、ヴォルフラム。ここでこいつらを失ったところで、また新しいガキを喚び寄せりゃいいだけのことだ。
 こいつを護ろうなんて暴れて生命を失うより、ずっと賢い選択だ」



私がどちらを信じるか。
そんなの。