あのー神様、一つだけ聞かせてくれませんか?
ほんの気まぐれを起こしたのがいけなかったんですか?
私、親孝行をしようと思っただけなんですよ?
ああ、そうか、こうして一つ以上聞いてしまうのがいけないんですね。
始まりは天国で
お父さん、お母さん。
先立ってしまった不幸をお許しください。
「これが天国ってヤツ?」
多分地獄じゃない。
ちょっと洋風ちっくな景色。
そしてとても綺麗な青空で。
「何で1年にあるかないかくらい珍しく皿洗いでもしようと思ったら天国にたどり着いてしまうんですかねええっ!!」
誰にでもなく叫ぶ。
とにかく叫ぶ。
「しかも全身水浸しってどういうこと!?これじゃあまるで排水溝にでも吸い込まれ…」
…あれぇ、排水溝の向こう側ってこうなってんのかな。
いや、そんなはずないさ。
「………ん?」
何やら馬の走る音が聞こえてくる。
その方向を見てみると、馬に乗った人たちが何人もこちらに向かって来ていた。
「天国って馬に乗れるんだ!一回馬術って習ってみたかったんだよねー!」
が、馬上の面々を見て少し固まってしまった。
明らかに外国人さん方。
英語なんて単語をしゃべる程度しか出来ませんけど、言葉が通じるのかしら。
とりあえず、あれだ。
笑顔よ、笑顔は万国共通なはず。
立ち上がって砂埃をはら…ってみたら、少し服に土色が残ってしまった。
げ、濡れてるから…仕方ないのか。
とか思っていたら、とうとう馬がここまでやって来た。
馬上の男性は眉間に皺がよっていて、背も高い。
濃灰色の髪を後ろで結んでいらっしゃる様子。
えっと、私、何か悪いことしたかな?
「は、はろー?」
「…これが次代魔王か」
…コレガジダイマオーカ。
“これが次代魔王か” かな。
「って、日本語話せるんですねー!しかも流暢ー!良かった!言葉が通じなかったら困りますもんね!」
「こちらの言葉が既に理解できるのか」
「は?日本語話してるじゃないですか」
かなり親しみにくい雰囲気の男性は、容姿にとてもお似合いの重低音で話されている。
「とにかく、我々と共に来てもらおうか」
どうしよう。
知らない人にはついてっちゃダメっていうけど、知らない土地は案内してもらわないとわかんないし。
それにもう死んじゃってるんだもんね、私。
ああ、悲しいはずなんだけど夢みたいであまりにも実感がわかない。
あ、これって夢なのかな?
「馬は乗れるのか?」
「馬は好きなんですけど、残念ながら」
というと、眉間の皺が増えた。
えっ!?
そして男性は馬を降り…そういえば、名前も名乗ってない。
「あ、あの、私はっていいます。あなたのお名前は?」
「…フォンヴォルテール卿グウェンダルだ」
「ふぉ、ふぉん…?」
さすが、外国人は名前の長さが違う!
「グウェンダルで構わない」
「あ…はい。よろしくお願いします、グウェンダルさん」
周りの景色はのどかでいい天気だってのに、この人はやっぱり不機嫌だ。
私が原因ですかね。