まどろみの幻覚



たまには家で映画を観ようなんて提案したのはどちらだったっけ。
抵抗虚しく後ろから抱き締められるという体勢でしばらく観ていたが。
段々内容が頭に入らなくなってきた。

「ごめんギブアップ。ちょっと寝る…頭痛い」

やっぱり無茶だったみたいだ。

「えっ!?大丈夫っスか!?」
「平気平気。昨日一気に漫画50冊読破したせいだから」

あれはなかなか読みごたえがあって、いい達成感を得られた。

「ホントっちって一気に読む派なんスね」
「続きが気になって夜も眠れない状態になるなら、読みきって力尽きる方がいい」
「相変わらず男らしいっス」
「ありがとう」

もそもそと動いてソファに移動する。

「添い寝する?」
「いらない。緊張するから」
「するの!?」
「そりゃ…するでしょ」

君はしないのか。
慣れすぎなんだよ!

「…緊張も嬉しいけど、いつか安心になったらもっと嬉しいっス」

そう言って黄瀬はへらっと笑った。

「くそ…可愛い」
「くそ!?」
「…こっち、くれば?」

嬉々として近付いた黄瀬をきゅっと抱き締める。
悔しいなあ。
カッコイイくせに可愛いんだもんなあ。
触り心地のいい髪を撫でていると、しっぽが見える気がするのは眠気だけのせいかな。

「…っち」
「なに?」
「ちょっとこのまんま寝かせてあげるとか無理かもしんな」
「おやすみ」

黄瀬を解放して押して距離を作る。

っち!」
「うるさい」

おあずけだ!
しょんぼりした耳としっぽが見えたのはきっと既に夢の中だったからだ。