口げんかの喜び 「…今日も野宿って、ホント?」 「すみません、近くに宿が無くて…」 ただいま私達は、野宿生活5日目を迎えようとしている。 2、3日なら耐えられるさと思ってきたけれど。 実際耐えたし。 「仕方ねぇだろ」 「むぅ…わかってるよ」 瞬間移動とか、一っ飛びなんて無理な話。 だけど。 「寝付けるかっ!」 ぶらぶらとジープの周りを散策する。 今日は晴れていて、星が綺麗だ。 月は満月。 三蔵を思い出す。 「一緒に歩けたらいいのに」 ま、皆もう寝てるけど。 「誰と一緒に歩きてぇんだ?」 「うわぁっ!?さささ三蔵!?」 後ろから聞こえた声にびっくりして振り向いた。 恥ずかしいことこの上ない。 「一人で歩くんじゃねぇ。危ねぇだろうが」 「寝てるの起こすわけにもいかないじゃない…」 「お前が抜け出せばどうせすぐにわかる」 …なんか悔しいな、それ。 「…追っかけて来てくれてありがとね」 「…フン」 「ねぇ三蔵手ぇつなごっか」 「…お前はこういう時だけ素直になるな」 「は?」 せっかく人が気分良くなってるというのに。 「その言葉、そっくりそのまま返す」 三蔵の方が絶対素直じゃない。 「言いやがったな?」 「言ったわよ?」 じっと睨み合うと。 “喧嘩するほど仲が良いってホントですよね” 八戒の言葉が頭をよぎった。 こんなところでも私達って口げんかしてるんだ。 「っあはは!」 「何笑ってやがる」 「いや、何でも。ふふふ」 これが私達のコミュニケーションの取り方、なのかな。 「三蔵。私今だけ素直になるから」 「あ?」 「大好きっ!」