合鍵 私が先生の家に行く時はいつも先生が家に居る。 だから合鍵を渡された時。 嬉しかったけど、必要性はあんまり感じなくて。 大事に持って、お守りのようにしようと決めた。 「鍵すぐ出るか?」 「はい?」 ご飯の買出しの帰り。 ドアの前で先生が振り返った。 「両手ふさがってちゃ出せねぇだろ。お前に鍵渡してたし、開けてくれ」 確かに先生は両手に買い物袋を持っていて。 だけど。 「…あ、はい」 なんだか私が鍵を出すのは気恥ずかしくて。 「どうした?」 「いえ、何でも」 バッグから小さな布袋を取り出す。 「お前、そんなのに入れてたのか?」 「うっ…」 目をつけられてしまった。 「べ、別にいいじゃないですか」 「ま、いいけどな。でもそういうのってアレだろ?石とか入れとくようなモンじゃなかったか?」 確かにこれは一般的にはパワーストーンなんかを入れておく為の袋。 「別にいいじゃないですか」 同じ言葉を繰り返す。 「顔が赤くなってるぜ?」 「そんなことないですっ!」 鍵穴に入れてふと気付く。 初めてこれを使うのだと。 「なんか変な感じです」 「あ?」 「人の家を自分の鍵で開けるなんて」 「…ここももうお前の家だろ」 「え?」 聞き返したと同時に先生は簡単に鍵を回して。 用が済んだそれをこちらに放ってさっさとドアを開く。 「自分の家に帰った時に言う言葉って何だか知ってるか?」 「…ただいま」 「おう、おかえり」