キス



「久保ちゃん、明日から禁煙ね」

「何で?」

「私が煙草嫌いなの知ってるでしょ?」



こっちに煙を向けないようにとか。
ちゃんと考えてくれてることは知ってる。
でもどうしても避けられないことが。



「煙草は煙も嫌いだけど、味も嫌いなんですよ」

「あー…ふーん?」



ニヤニヤするな。



「そうだなぁ、いいよ」

「え?」

「禁煙するよ」

「ほんとに!?」



応じてくれるとは思わなかった。
良くて条件付になるだろうと思ってたのに。



「でもね、

「ん?」

「すぐ物足りなくなるよ」

「何が?」



禁煙してから久保ちゃんはいつもの倍べたついてきて。
いつもの倍キスをしてきて。
それで気がついた。


嫌いな煙草の味も、いつの間にかなくてはならないものになってたってこと。