近距離注意 あーヤバイ。 眠たい…。 人様の家にお邪魔してるのに。 ていうか、私家庭教師じゃん。 生徒が頑張って問題を解いているというのに。 惰眠を貪っていいものか…。 あ、やっぱ無理。 おやすみなさい…。 「終わったぞ。せん…what?」 俺に問題集を押しつけておきながら、ソファで寝ているとはどういうわけか。 「…起きろ、先生」 無反応。 気持ち良さそうに寝息なんか吹いている。 「起きないつもりか?なら…」 何をしてやろうかと思案していたら、俺まで眠くなってきた。 「…Good night」 「………」 何か、いい匂いがする。 香水か何かかな。 それから、あったかい。 ゆっくり目をあけると、視界は少し暗かった。 が、なぜ暗いのかを理解した瞬間。 「っ!?」 叫び出しそうになって、ギリギリのところで飲み込んだ。 なんで? なんで翼くんが覆い被さってらっしゃる? しかもご丁寧に私達2人には毛布が掛けられている。 …ていうか、さすがモデル。 寝顔もカッコイイし綺麗だ。 でもこんな近距離で見るのは心臓に悪いです。 こんな体勢で寝なくたっていいじゃない。 …少し動いたら、唇が触れちゃいそう。 いや、鼻がぶつかるのが先かな。 翼くんの肘が滑ったら、顔と顔がぶつかる。 痛い。 それは痛…。 「………ん?」 「きゃあああっ!?」 「っ!?what!?何が起きた!?」 突然目を覚ました翼くんに私が思わず叫ぶと、彼はがばっとものすごい勢いで起き上がりあたりを見回した。 「…おはよう、翼くん」 「…まさか、俺も寝てしまうとはな」 「「………」」 何とも言えない沈黙が訪れる。 「ごっごめんね!翼くんが一生懸命やってるのに寝ちゃったりして」 「あ、ああ、そうだぞ!さっさと答え合わせをしろ、先生!」 いつもなら、その上から目線の言葉に突っ込むとこだけど、今日は私が折れてあげよう。 いい匂いがした。 翼くんから。 先生から。