気になる人 黄瀬くんは、いつも誰かと一緒。 私なんか特に話すこともないし、接点もほとんどない。 共通点なら一つあるけど。 約40人しか持つことができない共通点。 同じクラス。 なんて。 それを羨む声が多いのは事実だけど、同じクラスだからと言って接することができるわけでもないのだ。 まあ、別のクラスからだって黄瀬くんに会いに来る子はいっぱいいるけど。 だがしかし。 今日はその黄瀬くんに話しかけなければならない。 “話しかけることができる”ではなく、やらなければいけないのは私の役目だし、私にはそれくらい勇気のいることだから。 さっきから一人になって欲しいと願いながらチラチラ彼を見ているけれど、そんなチャンスは………きた!! 「あ、あの、黄瀬くんっ」 「何スか?」 うわっかっこいい! が、頑張れ私っ! 「英語の宿題、提出してないでしょ?今日は日直が集めることになってて…」 あれ? 黄瀬くんの顔から血の気が引いていくようだ。 まさか。 「黄瀬くん、もしかして…」 「…やってなかったっス」 「…やっぱり」 「提出っていうか、先生のところにはいつ持ってくんスか!?」 「えっと、今日は英語の授業がないから4時までだって」 早めに持って行こうと思ってたんだけどなあ。 「あと2時間じゃないスか!」 「うん」 正確には、授業があるから2時間も宿題に費やせないでしょ。 「すっかり忘れてた…」 「みたいだね…」 受け取って終わりだと思ってたのに、黄瀬くんとこんなに話せるなんて。 …もっと。 話したい。 「あの…良かったら私の写す?」 あんまり自信はないけど。 「ホントっスか!?」 「うん、私ので良ければだけど」 「助かるっス!」 「そっか、持ってくるからちょっと待ってて」 「いやーマジで助かったよ。おかげで何とか終わったっス」 「お役に立てて光栄です」 何とか笑顔で言ってみるけど、内心それどころじゃない。 黄瀬くんが私に話し掛けてる…! 「ありがと。んじゃ、提出お願いします」 「了解しましたっ」 あ、これスペル間違ってる。 教えてあげた方がいいかな。 「き、黄瀬くんっ」 「何スか?」 「あの、余計なことかもしれないけど、これ、間違ってるなって思って…」 「気付いてくれると思ってたっス」 「え?」 黄瀬くん? 「どういう…」 「ずーっと話してみたかったんスよね」 「えっと…私と?」 「そ。だけど、なんか話しかけにくくて…」 うわ、地味にショックだ。 私、黄瀬くんにそんな印象与えてたんだ…。 「そっか…なんか、ごめんね」 「えっ!俺が勝手にそう思ってただけスよ!?」 「私がそういう雰囲気出してたってことでしょ?」 「いやあの…ってよりかは…」 「?」 「気になる人って、そう簡単に話しかけられないじゃないスか」 「へえ、黄瀬くんも…って、え!?」 「…そういうことっス」 少し顔が赤くなってる。 「そ、そういうって…」 「あー…意外と意地悪なんスね」 そう言って、黄瀬くんは照れたように笑った。 「えっ!そういうつもりじゃ…」 「可愛い」 「黄瀬く…」 放課後とはいえ、まだ教室に残っている人はいて。 特に女の子はまさに阿鼻叫喚。 恥ずかしくて死にそうだったけど、黄瀬くんが「つい」なんて言って笑うから怒ることも出来なかった。