きみのなまえ



ずっと。
ずっと探して。
探し続けていたその背中を見つけた時、思わず掴みかかっていた。

「やっと見つけた…!」
「…

赤き弓兵は少しだけ驚いたようだった。
それは突然襲ったことに関してか、私が現れたことに関してかはわからなかったけど。

「凛とは契約を解除したらしいけど、私とはまだ契約関係の筈でしょ。なのにマスターの傍にいないなんて」

しかものんきに釣りとはいい度胸だ。
あ、結構釣れてる。

「今は聖杯戦争もない。ということは、君の傍にいる必要もなかろう?」

言葉が刺さる。
こんな言い方しかできない私も悪いとは思う。
でも。

「ずっと探してたよ」
「…私を探す必要はない」

ほんの数日しか経っていないのに、なぜ“ずっと”と感じるのかわからない。

「逢いたかった」
「あいつの家でぬくぬくと過ごしていれば良かっただろう」
「アーチャーがいない」

同じ人でも、衛宮くんとアーチャーは違う。
私はあなたに逢いたかった。
私はあなたと一緒に居たかった。

「…どれだけ探し回ってくれたのか知らないが、令呪が反応しなかったということはその程度の」
「あんた、本気で言ってんの…?反則トレースでゲートオブバビロン複製するわよ?」
「やめたまえ。馬鹿な事を言うな」
「1つしかない令呪をそんなことに使ってたまるもんですか。仮に逢えてもそれまでじゃない。馬鹿なこと言ってるのはアーチャーの方」

そんなの御免だ。

「君もこの繰り返す5日間を壊したいのか?」
「繰り返す?よくわかんないけど、アーチャーがいないのは嫌。私は士郎でなく、エミヤ…シロウと一緒にいたいの」

繰り返すなんてむしろ好都合かもしれない。
それこそずっと一緒に居られるなら。

「…次は共に過ごす事になるかもしれないな」
「え?」
「いや。しかし私と居ると言うが、これを手土産に小僧の家へ行くつもりはないぞ」

なんの魚かよくわからないけどおいしそう。

「言うだろうと思ったけど、とりあえず来てもらうからね」
「む、私は行かないと」
「凛が帰って来てるから。その魚は凛に献上して、お家を借りましょう。ま、元々住ませてもらってたから、帰るってことになるかもしれないけど」
「なるほど…そういうことか」
「そういうことっ」

「ん?」

まだ何か言いたりないのかと思ったら、アーチャーが真剣な目をしている。

「後悔しないな?」

シロウの言うことは、時々わからない。
だけど。

「全てにおいて、後悔しない。私はシロウ、あなたと一緒にいる」
「…そうか。ありがとう」
「………!シロ」
「すまないが、その呼び方はやめてくれないか」
「やだ」


ちゃんとある名前なんだから。

「2人きりの時くらい、私はあなたの名前を呼ぶよ、シロウ」
「…仕方がないな」

差し出した手を、サーヴァントは躊躇なく握ってくれた。