かき氷はいかが?



「アーチャー暑い…」
「そのようだな」
「えらく他人事ですね。涼しい顔しちゃって」

このなんていうかムワッとモワッとした暑さの中、このサーヴァントは多少クールビズのような服装だけで涼しげだった。

「…もしかしてそれ、ひんやりする服だとか?」
「まさか。普通の人間と変わらんよ」
「ふーん。ねえ、魔術でどうにかならない?」
「君も魔術師のはしくれだろう?」

一応そういうことにはなっているけれど。
でも小さい頃からそうして育ってきたとか、魔法学校で勉強してきたとかではないので、未だ自覚はほとんどない。
ある日突然あなたもマスターです今日から魔術師おめでとうって。
あれから凛に教えてもらっているものの、細かいところというか、初歩的な事すらわからないことが多いと思う。

「私に何かできるとすれば…」
「なになに!?」
「先日発見したが、あの故障しているかき氷の機械でも直すことか」
「え…あ、あれを…?」

一体誰の趣味なのか。
構造的には恐らくよくあるタイプの手動のかき氷機だ。
見た目以外は。
動かす度に不自然な目がギョロギョロと動く。

「あれ動いたらグロくない?見た目もファンシーに変えてほしいんだけど」
「残念ながらそういうセンスはなくてね。なに、君に見えないところで作ってやるさ」
「まあ!素敵な気遣いだわ、アーチャー!」

あれは間違いなく夢に見る。

「というわけで、君にはシロップのおつかいを頼みたい」
「えー」
「ただの氷を食いたいのかね?」

それは嫌だけど暑いんだってば。

「…わかった。イチゴがいいかな。ついでに練乳も買って来よう」





「な、なにこれ…」
「お気に召さなかったか?」
「いや、そんなまさか…」

帰ってくると、ここは店かとばかりに豪華なかき氷が。
フルーツが乗り、ソフトクリームまで乗っかっちゃって…。

「って、この家にこんなのあったの?」
「それは企業秘密だ」
「あっそう」

そんなのはどうでもいい話。
この素晴らしいデザートの前では。

「早くシロップをかけてしまわんと溶けるぞ」
「あ!うん!いただきます!」

こんな素敵なものを一人占めなんてもったいないな。
でも衛宮邸に居候中の凛も向こうでは涼んでいるだろうし、留守を預かる身でも少しくらい贅沢したっていいよね。

「…おいしい。幸せ!夏で良かった!」

最高だ。
アーチャー、素晴らしいよ。

「………っ!でもさすがかき氷。頭にくるわ、キーンと…」
「焦って食べる必要はないだろう」

美味しいから止まらないのだ。

「アーチャーも食べない?」
「私は遠慮しておくよ」
「はい」
「………」
「食べられないわけじゃないんでしょ?だったら一緒に食べようよ」

スプーンをアーチャーに向ける。

「…ではありがたくいただくよ、マスター」
「作ってくれたのはアーチャーだけどねえ」
「ああ、君のために作ったよ」
「ん?」

ひょい、とスプーンを奪われたと思ったら、私の口元に寄せられた。

「なに…?」
「わからないか?お返しだよ」
「これ…やられる側ってすごい恥ずかしくない?」
「私が今されたぞ」
「いや、うん…ちょっとアーチャー!?」

渋っていると顎に手を掛けられた。
ニヤリと笑うコイツが憎らしい。

、口を」
「開けって…?」
「ああ」

くっ…そうだ、さっさと食べれば終わる話だ。
それだけなのにこの羞恥心は何!!

「…あむ」

ああ、おいしいなあ。
さっさと食べなかったせいか、冷たいものが鎖骨のあたりに落ちた。
あーベタつくな、早く拭かないと…。

「アーチャー、ティッシュちょうだ…うわっ!?」

ぬる、とした感触に肌が粟立った。

「ちょっと…!?」

すぐに離れないアーチャーをぐいぐいと押しても力の差なんてよく知っているわけで。
吸い付かれ、結局唇まで同じようにされて、やっと解放された。

「…暑い」
「もう一度作るか」
「そんなに食べたらお腹壊す。あーあ、溶けちゃった…」
「かき氷の対価をもらったと思ってくれ」
「えっ………!?」
「まだ一部しか終わっていないのだがね」
「いやもう十分だと思うよ」

私は結局涼しさゼロだし。
それどころかマイナスで暑いし。

「夜の散歩は涼しいさ」
「わっ!ちょっと!離せっ!!」