一凛の華
イヴァンの帳簿の計算にちょっと駆り出されたり、ジュリオと一緒になんとなく戦ってみたり、ルキーノの横でお上品な服を着てニコニコしたり。
あとたまにカヴァッリ爺様に呼ばれたり、ロザーリア嬢と戯れてみたり。
最近はジャンにくっついて行ったりもする。
「ちゃんたら、CR:5のお手伝いさんってカンジね」
「ん?」
「いや、何でも屋さんか」
「私の本来の仕事はベルナルドもといCR:5の電話番だぞ。お手伝いさんなんて専門外もいいところだ。
天は私に家事能力というものを与えてくれなかったからな」
「ああうん…聞いてるわ」
ジャンが遠い目をして返事をした。
人には得手不得手、そして才能というものがあり、私には数学と戦闘能力、演技力がそこそこ恵まれた代わりに家事については全部さっぴかれたようだ。
ルキーノには幻想をぶち壊す才能があると言われたことがある。
コーヒーをまともに淹れられなかった時だったか。
あれ以来、私が触れる事は許されていない。
「にしても、やっぱシニョーラがいると華があるよな。また一緒に仕事してくれよ。野郎共に囲まれてるのは苦痛だぜ」
「華が欲しけりゃつんでくる方がいいんじゃないか?私は枯らす人間だ」
命も平気で奪えるように、まともな女じゃない。
「まあニコニコしてるのがいいならしてやるさ。ねぇジャンカルロ、何がお望み?」
「怖い。その変わりっぷりが怖い。イヴァン思い出しちまった…」
「何だと?イヴァンと一緒にするな」
「いや、あれはマジヤバイんだって」
ジャンは思い出しただけで鳥肌を立てている。
「ただいま。可愛い小鳥たち」
「お疲れちゃん、ベルナルド」
「遅かったな。面倒だったのか?」
「ああ、少しね…。ジャン、すまないがコーヒーをもらえるかな」
「へ?…ああ、了解」
ジャンは一度私の顔を見て、コーヒーを淹れに行った。
「留守の間に何かあったかい?」
「特に問題ない」
「そうか」
「ハイ、マンマ特製のコーヒーよん」
「ありがとう、ジャン」
用意されたカップは3つ。
私の前にも置いてくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「オイ、ジャン行くぞ!!」
「イヴァン!?」
勢い良くドアを開けたイヴァンは、ジャンの腕を掴んでそのまま連れて行こうとする。
「イヴァン!どうした?」
「どうもこうもねぇ!すっかり忘れてんだろ、このタコ!」
「はあ?」
よく見るとイヴァンの服装がいつもと違う。
「…爺様、というかロザーリア嬢か」
「あー、そういえ」
ば、というのんきな言葉はドアが閉まってから聞こえた。
イヴァンが外でギャアギャア騒いでいる。
「相変わらずうるさいな」
「」
「何だ?」
ベルナルドが自分の座る隣をぽんぽんと叩く。
「来いという命令か?」
「おいでというお誘いさ」
手まで差し出されては乗らないわけにもいかない。
「で、何だ?」
「仕事を頑張ってきて少し疲れていてね。ねぎらいが欲しいと思って」
「仕方がないな」
頬にキスをしてやる。
「よく頑張ったな。お疲れ」
「口にはしてくれないのかい?」
「ワガママだ」
一度目は触れるだけ、二度目は啄もうとすると舌が伸びてきて絡まれた。
「ん………」
ベルナルドのキスは甘すぎるドルチェだといつも思う。
吐きそうなくらい甘くて…中毒性がある。
それにしてもこのキスはお前の為じゃなかったのかと自ら舌を動かそうとしても主導権は譲られなかった。
「…何か考え事?」
「ベルナルドの為のキスだったはずだろうと。たまには私にさせろ」
一瞬驚いた顔をして、すぐにとても嬉しそうな顔をした。
「そうだな…の可愛い顔を見るのが俺の癒しでもあるんだがたまにはそういうのもいいな。拙い姿にゾクゾクしそうだ」
拙い、だと…?
「やめた」
「え?」
「バカにするな。もうしてやらない」
「…!すまん、俺が悪かった!」
「ダメだ。許さん」