イエローバレンタイン



「ハッピーバレンタイン。黄瀬くんにチョコレートをあげよう」
「マジっスか!?やったああああ!!」
「それだけもらっておいてまだ欲しいのか」

彼の人気は知っていたけど、紙袋どころじゃない。
段ボールから溢れんばかりの愛。

「何言ってるんスか!っちのだから嬉しいんスよ!」
「ふーん」
「うわっ!信じてない!」

同じようなテンションでそれだけもらっておいて、私のだけ特別なんておめでたい人間じゃないぞ黄瀬よ。

「うん、信じられないね」
「ねえっち。他の人にもチョコあげたんスか?」
「友チョコに義理チョコに、私今日チョコレートを売り歩けるってレベルだよ」

まさか紙袋が必要になるとは思わなかった。

「…俺のもみんなのと同じ?」
「え?」

急に黄瀬の顔が近くなる。
同じじゃない。
見た目こそほとんど変わらないけど、他とは違う目印をつけてある。
私くらいしか気付かないようなレベルで。
けど、これ白状できるのか私。
そんなのできるなら、とっくに…。

っち顔真っ赤」
「えっ!嘘!?」

クスクス笑いながら黄瀬が離れていく。
それに悔しさとなんとなく寂しさを感じてネクタイを掴んだ。

「うわっ!?」
「チョコレート持ってけ!」

黄瀬仕様の黄色いリボンをつけた袋を押し付けて、同時にネクタイを離して駆け出した。
正確には逃げた。

今のままでいいんだ。

○○っちは他の子よりリードしてる証だから。