たとえばそれは、イチゴオレが似合うような
きゃあきゃあ。
うん、だいぶ大目に見てこれくらい。
実際この耳にはぎゃあぎゃあと言える。
そう、うるさい。
「あのさー」
紙パックのイチゴオレ。
飲み干してしまおうとズズズと吸い込む。
「何スかって、ああっ!飲んじゃったんスか!?」
飲みました。
「だって、遅いから」
いつものように黄瀬は女の子に囲まれて、荷物となっていたイチゴオレを預けられたのはいつだったか。
どうしようもなく退屈で、面倒で。
未開封だったそれを、ぬるくなる前に飲んでしまった。
「待たせちゃったのは悪かったと思うっス」
「ホントにね。何で私が待たなきゃいけないんだか」
あれ?
「ホント悪かったって…あ、っち。さっき何か言いかけてたっスよね?」
「ん?ああ、別にどうでもいいことだよ」
それより。
私、ホントに待つ理由なんかあった?
さっさと帰れば良かったのに。
「どうでも良くないっスよ」
「今日の晩御飯は何々が食べたいとかだったらどうでもいいじゃん」
「じゃあ、一緒に食べに行くっス」
「は?」
「違うんでしょ?」
「え、いやまあうん…」
「っちがどうでもいいって言う時は、あんまりどうでも良くないっスよ」
「………」
見破られてるのか。
でも今日のはかなりくだらないんだけどな。
晩御飯よりは実のある話かもしれないけど。
「いやーあのね…」
改まると言いにくい。
「黄瀬の彼女って、嫉妬する人は向かないだろうねっていう話」
あれ、反応がない。
驚愕するほどくだらなくもないと思…いたいんだけど。
「っちは嫉妬するっスか?」
「何でそういう話になる」
「嫉妬する?」
だから。
なんで。
「はー…」
こういう時の黄瀬は、答えてやらないと納得しない。
「する、かもね。あーんなに女の子に囲まれて、愛想振りまいてる黄瀬クンを見れば」
まあ、事実だ。
黄瀬は私を特に気にしないから、女の子達も最初は“そいつはなんなんだーなにこの女ー”って様子を見せるものの、結局は空気やマネージャーみたいな扱いになる。
私って何だろう。
もちろん空気なんかじゃなければ、学生という身分だし黄瀬のマネージャーでもない。
友達ってのが一番いいのかもしれないけど、自分の中ではしっくりこなくて。
「ごめんね」
「え」
頭をポンポンと撫でられる。
な、何?
私はなんて反応したらいいの?
「き…」
「付き合ってください」
「―――」
そんな、信じられないこと言われたら。
「はあ!?」
こういう反応しか出来ない。
「えっ、はあ!?って何スか!俺女の子に告白してそんな風に返ってきたの初めてっスよ!」
「うっさいなあ!あんまりにも突然でびっくりしたの!ていうか、私に告ってんのに他の女の話を持ち出すな!」
「…やっぱ、嫉妬してたんスね」
う………。
「だから、言ったでしょ。黄瀬が付き合うなら、嫉妬しない彼女がいいねって」
私みたいなのはそれを差し置いてもいろいろ論外だろう。
「可愛い女の子なんかいっぱいいるじゃん。今日サインもらってた子だって…」
「それじゃあ意味がないスよ」
どうしてそうやって、逃げ場を奪っていくんだ、お前は。
「っち…じゃないと意味ない」
「ば…」
もう、言い訳が。
逃げ方が思い付かない。
「ばかじゃないの…」
「バカでもいいっスよ」
「………っ」
ほんとはずっと。
ずっと苦しかったんだから。
傍にいたいのに、それは私だけに許されたことじゃなくて。
苦しいくせに、傍にいたくて。
ずっと、黄瀬にも、自分にも嘘ついてた。
「あー最低。泣くなんて最悪…ぐす」
「可愛いっスよね、は」
「可愛くない。可愛げもなんにもない」
「抱き締めたくなるくらい愛らしいっス」
「うっさい」
「ホントのことなんスけどね」
「いい加減に…っ」
その腕の力強さに。
しばらく動けなかった。