手作りって迷惑かな?
「出来た…!」
味はもちろん、見た目、ラッピングに至るまで完璧。
そう、完璧。
あとは…。
「どう渡すか、かなぁ」
ていうか、もらってくれる保障もない。
興味なさそうだしなぁ。
「悩むだけ無駄か」
鞄にしまって、学校に向かう。
「何なのよ、あの人だかりは…!」
いや、わかる。
すごくわかる。
私だってあの一部になろうとしているんだから。
あの山の中で、どうしたら印象に残るのか。
全部完璧。
だけど、手作りって迷惑かな?
早く食べてもらわないと悪くなっちゃうし。
ただでさえあんなにもらってるっていうのに。
甘いもの好きかどうかも正直知らない。
だから甘さは控えめにしてきた。
「…放課後まで待とう」
“あの、先生…好きですっ!”
「………」
社会科教室のドアの前に来てみたらこれだ。
私はここで立ち去るべき?
やめてよ、私はまだ何もしてないのに。
でもこれって立ち聞…。
走り寄って来る足音に慌ててドアから離れる。
女の子が泣きながら走って行った。
これを見ても、私は立ち向かえるのか…。
はあ、と中でため息が聞こえた。
「ベナウィ、先生…?」
おずおずと教室を覗き込む。
「さん。どうかしましたか?」
いや、その。
「えっと…先生、チョコレートいっぱいもらったでしょ?
休み時間もすごい人だかりでしたよねー。やっぱりモテますね」
こんなこと言いたいんじゃなくて。
「そんなことはありません」
先生が苦笑する。
こんな顔見たいんじゃなくて。
「あの…出来れば、でいいんですけど」
「はい?」
「私…実は、ケーキを、焼いてきまして。もし良かったら、もらってもらえませんか?」
振り絞るように出した言葉。
私もあの子と同じように涙を流すのだろうか。
「喜んでいただきましょう」
「あはは、やっぱりダメ…えぇっ!?」
今、なんて。
「喜んでいただきます」
「本当に…?」
「ええ」
味はもちろん、見た目、ラッピングに至るまで完璧。
そう、完璧。
それであなたの笑顔が見られれば、私は何もいりません。
「ホワイトデー、楽しみにしていてくださいね」
「え?」
いくら与えられても、本当に欲しいものでなくては意味がないんですよ。