宝物は小さな雪だるま 「昔さぁ、冷凍庫に入れたよね」 「何をだ」 「雪だるま」 「入れねーよ」 「入れるよ!」 幼稚園とかそれくらいの時。 手に少し余るくらいの雪を握って。 上は小さく、下は少し大きく。 「溶けたりとか壊れたりするのが嫌で。こっそり入れといたの」 冷凍庫は小さな自分の背には高くて。 背伸びじゃ足りなくてイスに登って。 「幼稚園児にしては知恵が働いたと思わない?」 「だから入れねーっつってんだろうが」 「春まで入ってたよ、冷凍庫に。今考えるとお母さん超優しかったんだなって思う」 「春までってことは結局壊したんだろ」 「ふふ、それがねー」 “雪だるまさんはね、春になったらお出かけしなくちゃいけないのよ” どこに行っちゃうの? “空のお散歩に行くの” …いつ帰ってくるの? “また寒くなったら帰ってくるわ” 「って言うから、外に出しちゃったんだ。まぁ結局帰っては来なかったんだけど」 そりゃ当たり前だけど。 1年も経てば綺麗さっぱり忘れてた。 お父さんともっと大きな雪だるまを作ったっけ。 「で、何でそんな話を始めたんだお前は」 「ああ、今日三蔵のところに来る時に見かけたの。ちっちゃい雪だるま。可愛くてさー」 妙に懐かしくなって。 「あのさ、三蔵」 「断る」 「まだ何も言ってないんだけど!」 「わかりやす過ぎるんだよ」 「せめて聞いてから決めようよ、断るかどうか」 「俺の答えは変わらん」 「えー」 三蔵、一緒に雪だるま作らない? 「クソ寒い中誰がやるか」 「あたしと三蔵」 「やらねーよ」 「なーんでー!!」 こうなったらこっそり入れといてやろう。 小さな雪だるま。 目は紫にしようかな。