降るか 降らないか
「うわ…降りそうですね」
「暗くなってんな」
昇降口で二人でぼやく。
「今日傘ないのに…」
「奇遇だな、オレ様もだ。賭けるか」
「はい?」
「雨が降るか、降らないか」
何言ってるんだか。
「賭けになりませんよ」
「何でだよ」
「私も先生も傘を持ってないんですよ?じゃあどっちも“降らない”に賭けるじゃないですか」
降らない方がいいじゃないか。
「お前は“降らない”だな」
え。
「まさか…先生?」
「オレ様は“降る”に賭ける」
「…何でですかー!」
かろうじて馬鹿という言葉は飲み込んだ。
「ちゃんの濡れた姿を見たいだろ?」
「………」
…オヤジ的発言。
「おい?」
「は、はい?」
「お前今オレ様に失礼なこと思っただろ」
「まさかぁ!」
「…まあそれは置いといてだな。降った方がお前にも得があるんだぞ?」
損なことしか浮かばない。
「水も滴るいい男って言うだろ?」
「…!」
かわせなかった。
そんな顔で、そんな声で言うなんて反則。
「ん?どうした?」
「な、何でもないですっ」
思わず先生から顔をそらす。
「あ」
その時見えた地面の黒点。
それは一つにとどまらず増えて…。
「あーっ!雨降って来ちゃったじゃないですか!」
「オレ様の勝ちだな」
「そういうことじゃなくて!風邪ひくかもしれないですよー」
「オレ様が手厚く看護してやるから安心しろ」
「遠慮しときます」
「つれねぇなあ。…ま、やまねぇだろうし帰るぞ」
「もー先生が変な話するから」
「これ被っとけ」
いきなり頭に何かを投げられる。
「わっ!?これ先生の上着…」
「走るぞ!」
雨の匂いをかき消すほどの、煙草の匂い。