ひとやすみ 「あー砂糖全部入っちゃった」 ちょっと残すはずが、スプーンは空。 仕方なしにそれは砂糖の海に戻した。 「いいんじゃないのけ?」 隣のジャンさんがカップを覗く。 「いやいや、バランスって大切ですよ」 これくらいだと少し甘すぎるんだよなあ。 でも入れたからには混ぜるけどさ。 「いつもドルチェ食べてるじゃないの」 「あれは元々あの味じゃないですか。これはせっかくブラックで出てくるから味を調整したいんです」 「なるほどねぇ」 って言っても私の場合元々牛乳入れてもらってるんだけど。 お子ちゃまだとからかわれたのが記憶に新しいが、それ以来用意してもらえてるんだからありがたい。 「も一杯頼む?」 「そんなもったいない!飲みます」 「俺のに牛乳入れよっか」 「じゃあジャンさんこの甘いの飲まなきゃじゃないですか」 「全部飲んでアゲル」 なんでそこでそんなエロい言い方するんですか…!! 「…自分で、飲みます、から」 「そ?」 「はい」 まったくもう。 「たかがコーヒー一杯で何やってんでしょうね」 笑えてきた。 「こういうの大事デショ。俺は癒されるねぇ」 「癒しですか?」 それはまさかだ。 「仕事ばっかじゃやってらんねぇし、バカ言ったりやってみたり、コーヒー一杯でいろいろ言ってみたり、必要だと思うぜ?」 「やってらんないですねえ…ジャンさん、結構疲れてます?」 「ん?どーかなぁ」 何かできればいいんだけどな。 「あんまり、無理しないでくださいね」 「そのまんま返すわ」 「私は全っ然無理してませんから!」 胸を張ってみせる。 むしろもっと忙しくしてる皆々様から分けてもらっても構わないくらいだ。 えっと…私ができることって、限られてるけど。 ははは。 「そっか」 その笑顔にほっとする。 いや、きゅんともします。 でも平気じゃないのに笑うのだけは勘弁して欲しいな。 「今さー」 「はい?」 「向こうの返事待ちなのよね」 「はい?」 「要するに、俺が今できることってなァんにもないわけ」 んーと、時間がありますよ、空いてますよって言いたいわけですね? 「ってことで」 ジャンさんがソファから立ち上がる。 「もうちょい、付き合ってくんない?」 「ぇっ…と…」 心臓が当社比3倍並みで加速を始める。 わざと、わからないふりをする。 そんなはずはないんだ。 ジャンさんすっかりヤル気の顔で、私を覆って閉じ込めてるんだから。 「お返事を聞いても、シニョーラ?」 あくまで紳士ですか。 日本人って奥ゆかしいっていうか超奥手で恥じらいまくりでそれでそれで…。 それでも言わせたがるジャンさんも、私は好きで。 「…時間なら、あります」 なんとかそう言うと、ジャンさんは苦笑する。 素直じゃなくて悪かったな。 だからせめて。 キスくらいこちらから。