秘密のチョコレート
珍しく二人きりな部室。
部外者な私は黄瀬に届け物をしてさっさと帰る予定だったのに、黄瀬しかいないから出て行かなければという気持ちが薄かった。
だらだらどうでもいい会話をしながらカバンを漁っていると、朝もらった箱が見えた。
「ねえ、これ食べる?」
「何スか?」
「チョコ。それぞれ半分こね」
確か限定○個で手に入りにくいから大事に食べてよね!と言われた気がする。
「えっ!?いいんスか!?」
「そんなに嬉しい?」
黄瀬はチョコレートがかなり好きなようだ。
「だってっちと間接キスし放題だなんて…!あ、その場合はやっぱっちが先に食べ」
「箱食べてれば?」
「俺はチョコがいいっス!」
涙目で訴えるほどやっぱりチョコが好きなのか。
「じゃあ全部あげるよ」
「っち全部わかっててやってるでしょ!」
「うん」
バレた。
ついつい反応が良くていじめてしまう。
「間接キスっスよ!ドキドキしないの!?」
「別に」
中学生かい。
「…俺、全然恋愛対象じゃないんスね」
そんなのにドキドキしちゃうような可愛い女じゃないことをいい加減学習したらどうかな。
「そういうのが好きな子にやってあげたら?」
「っちじゃないと意味ないっス…」
このままループしそうだな。
さっさと包みを開けて、一粒取り出す。
その間もうなだれている黄瀬に呆れながら、常温で少し柔らかいチョコを噛んだ。
「黄瀬、口開けて」
「は…あ?」
「半分こって言ったでしょ」
そんなに顔を赤くしなくても。
こっちが恥ずかしくなってくる。
「部活の連中に見つからないうちに早く食べちゃってくれる?みんなの分はないから」
半分こどころか3、4分の1でも足りないわ。
「じゃあ今度は俺が先に食べるっス」
「もういらない」
「えっ!?」
あの顔をあと4回も見せられるなんて。
既にお腹いっぱいだ。