不器用な君



「………」



買出しに出るってことは必然的に来る人もいるってことで。
それは荷物持ちと呼ばれる人材である。



「何だよ、エロ河童!」

「うるせぇんだよ、バカ猿!」



いつものように騒がしい二人の少し後ろを八戒と並んで歩く。
荷物、落とさないといいけど。



「毎度毎度飽きないねぇ」

「それくらいしかやることありませんから」

「あはは、あれに飽きちゃったら随分静かになっちゃうんだろうね」



これで残りの二人がいれば、は悟浄、悟空とわいわいやって、三蔵は私と八戒と保護者のように後ろからついていく。
あんまりにいつもどおりでこっちは毒気が抜けてしまった。
賑やかな街で退屈しないということもあるだろう。



「あ」

「どうしました?」

「いらっしゃい」



買い物を終えて少し疲れてしまって。
涼しげな飲み物にちょっぴり心奪われた。



「飲みます?」

「いい?」

「僕のお金じゃありませんから」

「さすが八戒」


とてもいい笑顔です。



「毎度ー」

「んー」



口に含むと途端に口内が痺れる。
おいしい。



「八戒ーっ!これ食いたい!」

「はいはい」



八戒が母親のように悟空の元へ。
入れ替わるように悟浄がこちらに来た。



「何飲んでんの?」

「サイダー」

「俺にもちょーだい」

「いいよ」

「でも両手塞がってるしぃ、口移しで」

「何言ってんの!」



バシッと叩いてやる。



「おわっ!荷物落とすじゃねぇか!」

「落とせば?八戒とか怒るだろうけど」

「あー俺が悪かったです。なんか口寂しいからくれない?」



口寂しいって…。
そんなに長い時間でもなかったと思うけどなぁ、買い出し。
日頃から煙草吸い過ぎ。



「最初っからそう言えばいいのに」



悟浄の口元にストローを持って行こうとする。



「…っと、悟浄止まって」

「ん。…たまに飲むとうまいな」

「だよねー。なんかたまに飲みたくなる」

「二人とも、置いて行きますよー」

「わっ、ちょっと待ってーっ!」



「ん?」



ちゅ。



「ゴチソーサマ」

「はぁっ!?」



だから、何がしたいのよ。










宿に戻ると一目散に部屋に向かって引き籠もりを決め込んだ。
八戒には何考えてるのかわかんない笑顔をされるし、悟空には顔が赤いのを指摘されるし、悟浄は。
悟浄は平然としてるし。



「最悪だ」



何でもないことだってこと?
気にしないのが一番?
唇には感触が残っているような錯覚まで覚えるのに。
思い出してベッドを転がる。
不意打ちだったのにその一瞬が鮮明に残っている。



?」



控え目なノック。
がばりとベッドから起き上がって対応を考える。



「ご、ご、ご、ごじょう?」

「そ、俺。入ってい?」

「いいか悪いかと聞かれればそれはですね」



それは。
それは…。



「ダメ」

「お邪魔しまーす」



断ったというのにドアが開く。



「ちょっ!何でよ!?」

「話があるんだよ」

「私ダメって言ったよね!?」

「どーしても話したかったの」

「………」



こっちはただでさえ昨日から気まずいってのに。



「あのさ、悟浄」

「ん?」

「悟浄にとってキスって挨拶みたいなもの?」



だったら意識しないよ。
今だって世間話しに来たんでしょ。
合わせてあげるよ。



「俺さ、一人の女に惚れたことってねぇの」

「………」

「女なんてどれも同じようなもんだと思ってたし」



痛い。
苦しい。



「だから…大事にしたいって奴が出来ても大事にするやり方がわかんなくて」



じっと悟浄がこちらを見る。
すごくドキドキする。
不安で。
だけど期待して。



「情けねぇ話だよなぁ。好きな女が近くにいるのに他の女抱いてるなんて」



期待が、確信に変わり始める。



「あの…」



「………っ」



真剣な目。



「好きだ」



言葉と同時に涙が流れた。
臆病だったのは私の方だ。
気持ちをひた隠しにして。



っ!?」

「ごめ…わ、私もずっと好きだった…。悟浄のことが…っ」



一瞬悟浄の顔が泣きそうに見えて。
それを悟らせないかのように重なる唇。
堰を切って泣き出すかのように、キスは止まらなかった。



「ホント悟浄って馬鹿だよね」

「…あんまり言うなよ」

「似た者同士」

「へ?」



臆病で不器用で。
だけど気持ちは大きくて。
そんな似た者同士なら、よく付き合っていけそうじゃない?